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圧縮性の流体を解析してみる初心者のための流体解析入門(13)(2/3 ページ)

» 2020年06月19日 10時00分 公開

圧縮性を考慮する場合

 ところが状況によっては圧縮性を扱わないと、解が大幅に不正確になることが考えられます。1つは、温度が大幅に変化する場合です。例えば、初期温度で20℃だったものが、120℃になるというような場合です。これについては、ボイルシャルルの法則を使えば簡単にイメージできると思います。つまり、気体の圧力は絶対温度に比例して、体積に反比例するというやつです。圧力Ρを密度ρに置き換えて考えてもよいでしょう。

 また、別の場合にも圧縮性を考慮する必要があります。それは、流れが非常に速い場合です。では、どの程度速ければ圧縮性を考慮しなければならないのでしょうか? この指標になるのが「音速」です。ちなみに、先ほど示した体積弾性率は、断熱音速に関連付けて表すことができます。

 圧力と密度の変化は断熱音速で表すことが可能で、

c2=ΔΡ/Δρ

となります。つまり、

E=ρc2

となるわけです。

 で、一般的には、流れの速度がマッハ0.3、つまり音速の30%を超えるようだと圧縮性を考慮した方がよいといわれています。空気中における音速はざっくり、秒速340mであることが知られています。つまり、秒速100mを超えると空気は圧縮性の気体として扱った方がよいというわけです。ちなみに、ジェット旅客機の場合は、マッハ0.8程度で巡航するのでこのような飛行機の解析をするのであれば、圧縮性を考慮した方がよいということになります。また、先ほどの秒速100mは、時速360kmになるので、リニアモーターカーを想定するとこれも圧縮性を考慮した方がよさそうですね。

圧縮性を考慮した計算

 さて、圧縮性を考慮した計算の分かりやすい例として、今回は「衝撃波」について考えてみました。衝撃波は、主に超音速の飛行機が飛ぶ際に発生するものとして有名で、この衝撃波が地上に届く「ソニックブーム」も非常によく知られています。

 衝撃波は簡単にいえば、流体を伝播する圧力の不連続な変化であり、“圧力の波”ということになります。今回は、その圧力の急激な変化を可視化できればと思います。

 さて、ここでCFDソフトを使うお作法を考えてみましょう。まずは「ソルバー」です。一般的に多くの商用CFDソフトで用いられているものが、「圧力ベースソルバー」と呼ばれるものです。圧力ベースのソルバーとは、基礎方程式を解くに当たり、質量保存を満たすために、圧力補正法を用いています。よく知られるものとしては、SIMPLE法などがあります。基本的には、質量保存や運動量保存の各基礎方程式を個別に解くということが特徴といえると思います。使用するソフトにもよりますが、SIMPLE法以外にも他の手法が用意されています。

 基本的に圧力ベースソルバーは、非圧縮性流体を扱う場合や、低マッハ数の流れ場による圧縮性流体を扱う場合に向いているとされています。高マッハ数の問題などに無理にこのソルバーを用いると計算も不安定になったり、精度の悪い結果が生じるたりする可能性もあります。

 そのため、今回の解析ではマッハ2相当の流速を与えることにし、ソルバーは「密度ベースソルバー」を用いてみました。こちらのソルバーと圧力ベースソルバーの違いは、前述の質量保存、運動量保存、あるいはエネルギー保存などの各保存式を連成して解くというところにあります。具体的に、これらの式をどう解いていくのか? 移流項は? 拡散項は? と言い出すと難しい話になり、分かりやすさがモットーの本連載の趣旨とずれてしまうため、このあたりにしておきます。

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