一方、注目のクラウド/SaaS戦略について、へプルマン氏は「エンタープライズ領域の業務ソフトウェアがクラウドサービス(SaaS)に置き換わっていく中、製造業の領域は遅れをとっている。COVID-19下のリモートワークでエンジニアリング領域の業務がスムーズに遂行できなかったのもこうした理由からだ。ここをクラウド化していかなければならない」との考えを示す。
そして、この考えに基づいて行われたのが、2019年11月のOnshapeの買収だ。
Onshapeは、3D CADによる設計機能とデータ管理、コラボレーションツールなどが一体となった製品開発プラットフォームをSaaSモデルで提供する。へプルマン氏は「COVID-19の危機が訪れる前に、PTCはこの結論に至っていた。率直に言ってOnshapeの買収にこれ以上良いタイミングはなかった」と述べる。
Onshapeの技術は、同社の次世代Pure-SaaS CAD/PLMとしての価値を提供するだけでなく、PTCのポートフォリオ全体で使用できるマルチユーザー/マルチテナントのSaaSプラットフォームとして機能するという。「われわれは、このプラットフォームを『Atlas』と名付けた。これを活用し、今後、長期的にPTCの全ての主要なソフトウェア製品をSaaSバージョンで提供する考えだ」(へプルマン氏)。
また、同社はWebブラウザベースのPLMソリューション「Windchill」をベースとするクラウド戦略を強化してきた背景もあるが、Onshapeの技術によって、PLM領域におけるクラウド/SaaSの活用レベルがさらに引き上げられるとの考えを示す。
もちろん、Onshapeであればいつでも、どこからでも、どのデバイスからでも、最新データにアクセスできるため、リモートワーク下での設計業務が容易に行える。「(ニューノーマルに向けて)こうした新しい常識を受け入れてもらうためにも、われわれがリーダーシップを発揮し、エンジニアリング領域のクラウド化、SaaS活用を推進していかなければならない」とへプルマン氏は語る。
さらに、サプライチェーンの観点からもOnshapeのSaaSテクノロジーが柔軟性をもたらすという。例えば、従来のサプライチェーンでは、取引企業間でのデータのやりとり、スムーズな相互運用のために、同一バージョンのソフトウェアを複数運用する必要などがあったが、「Onshapeであれば、サプライチェーン間でのファイルのやりとりが不要となり、誰もが常に同じ最新バージョンで、最新のデータにアクセスできる。Onshapeを触っていただければ、これが従来と全く異なるアプローチであり、製品開発を変革するものだと理解できるはずだ」とへプルマン氏は強調する。
また、講演の途中で紹介された、小型電気自動車(EV)を開発するe.GOの事例では、グローバル生産のフランチャイズモデルの導入において、IPデータを世界各国のフランチャイズ先と共有する仕組み、フランチャイズのポータルとしてOnshapeを活用しているという。「フランチャイズ先に設計データのコピーを渡すのではなく、データへのアクセス権のみを与えることでIPを保護し、アクセス状況も監視できる。また、現地化のための設計変更においてもOnshapeであれば、リアルタイムでの協同作業、コラボレーション設計が可能だ」(へプルマン氏)。
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