こうした課題の解消を目指す上で、立本氏は「将来を予測する上で前年のデータが参考にできない以上、まずは現場の最前線で生じている情報をいち早く収集して、状況の変化に応じて柔軟に対応できる体制を整える必要がある。信頼性の高い最新のデータ資源を業界全体で共有する体制を構築することが重要だ」と指摘した。
小売店舗の現場ではID-POS(顧客IDと結びついたPOSデータ)や棚前情報、商品マーケティングに関わる情報が日々生成されている。しかし、従来これらのデータはメーカーや卸売り業者、小売業者などが別々に収集、保有している状態だった。こうした状況を変えて業界全体でデータ共有の体制づくりを進めることで、より正確で迅速なデータ分析が実現し、業務効率性を向上させられる可能性がある。
またデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を早急に進めることも重要となる。小売業界はCOVID-19の感染拡大以前から、バリューチェーン構築時のデジタル技術の活用や、顧客へのレコメンド強化、流通の効率化、在庫の最適化といったDXを進めていた。しかし立本氏は「COVID-19によって、以前の『DXを実現したいよね』という状況から『DXをしなければ生き残れない』状況へと業界を取り巻く環境が強制的に変化させられた」として、COVID-19によって小売業界におけるDXの取り組みがより一層加速する可能性を指摘した。
立本氏は今後の小売業界の展望として「IMFの予測では元の状態に戻るまでに2年かかるという話だったが、全てが完全に元に戻るわけではない。消費者や従業員の心理としてはできるだけ対面作業や密集地帯での作業を避けたいという思いが働くはずだ。レジレス化やキャッシュレス化、対面作業を減らすためのストアコンディショニングの自動化などの取り組みを進めていかなければならない。COVID-19はマイナスの影響も大きいが、DXをかなり後押ししている側面もある。この2年の取り組みで、10年後の業界の姿を決めるくらいのインパクトはあるはずだ」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.