リコー東芝テック設立の「エトリア」が1周年、複合機共通エンジンの開発を前倒しイノベーションのレシピ(1/3 ページ)

リコーと東芝テックが出資する、両社の複合機などの開発生産に関わる事業の統合会社であるエトリアが1周年を迎えた。エトリアが目指す「共通エンジンの開発」と「新事業領域への挑戦」、そして新たに加わるOKIとの統合について、エトリア 社長の中田克典氏が説明した。

» 2025年07月29日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 複合機大手であるリコーと東芝テックが出資して設立した、両社の複合機などの開発生産に関わる事業の統合会社であるエトリア(ETRIA)が1周年を迎えた。コロナ禍によって加速した印刷ニーズの低下と複合機市場の減速が背景にあったものの、競合企業同士による開発生産の統合という発表は驚きを持って迎えられた。

エトリア 代表取締役 社長執行役員の中田克典氏 エトリア 代表取締役 社長執行役員の中田克典氏[クリックで拡大]

 エトリアが正式に発足した2024年7月1日から約1年、エトリアは2025年7月15日、横浜市内のみなとみらい地区にある同社本社で記者会見を開き、同社が目指す姿やこれまでの成果、今後に向けた新たな取り組みなどについて説明した。

 エトリア 代表取締役 社長執行役員でリコー コーポレート専務執行役員 リコーデジタルプロダクツBU プレジデントを兼務する中田克典氏は「エトリアが発足してからあっという間の1年だった。国内外の拠点や関連会社のほとんどで企業ロゴをエトリアへの変更が完了している。認知度向上に向けては、リコーのテニス部ユニフォームの袖にエトリアのロゴを入れており、今後はリコーグループ傘下となったPFUのバレーボールチームのブルーキャッツにも同様にエトリアのロゴを入れる予定だ」と語る。

会見の発表資料の1ページ目 会見の発表資料の1ページ目。各拠点のロゴがエトリアになっている他、リコーのテニス部ユニフォームの袖にエトリアのロゴを入っている[クリックで拡大] 出所:エトリア

エトリア設立の当初から工場の相互活用などの取り組みを開始

 エトリア設立の背景には複合機の市場環境に加えて、不確実性が増す社会情勢の影響も大きい。中田氏は「国際情勢の緊張や不安定化、国/地域ごとに強化される環境規制、情報セキュリティへの意識の高まり、デジタル化による業務変革の加速などビジネス環境を取り巻く社会情勢が不確実性を増している中で、資金的余裕がなければ太刀打ちできない状況になりつつある。そのために企業間の連携は不可欠な戦略だ」と説明する。

 例えば、環境規制の例として挙げたのがPFAS(有機フッ素化合物)への対応だ。複合機のトナーやインクは、印刷の均一性や明瞭さを向上する目的でPFASが使われてきた。しかし今後は、PFASを用いずにこれまでと同様の印刷の均一性や明瞭さを実現しなければならないが、そのためには研究開発の費用がかかる。「1社、2社、3社と複数社で連携することで効率よく早期に実現できるようになる」(中田氏)という。

 エトリアが手掛ける事業は、複合機のプラットフォームとなる「共通エンジンの開発」と、出資社であるリコーと東芝テックの技術を基にした「新事業領域への挑戦」の2本立てとなっている。

エトリアの目指す姿とこれまでの成果 エトリアの目指す姿とこれまでの成果[クリックで拡大] 出所:エトリア

 発足から1年での成果としては、リコーと東芝テックという異なる文化を持つ企業の複合機の生産/開発に関わる部門や関連会社が1つにまとまる事業運営体制を構築できたことにあるだろう。中田氏は「エトリアの発足前から両社の若手を中心に積極的に交流を図ることで人材/文化の融合が着実に進みつつある」と述べる。また、初年度(2024年7月〜2025年3月の9カ月間)の事業計画も、売上高、限界利益、営業利益など全ての指標で達成できている。

 共通エンジンの開発や新事業領域への挑戦に前倒す形で取り組んでいるのが、工場の相互活用だ。複合機のエンジンやフィニッシャーなどの周辺機器に用いられる材料は、リコーと東芝テックの両方で同様の要件が求められることが多い。これらの生産は1カ所に統合した方がリードタイムの短縮や需要変動などにも対応しやすくなるため、エトリアの発足直後から取り組みを始めている。

 代表例が東芝テック傘下だったマレーシア工場で、エトリアとして周辺機器の生産を集約しており、2024年度は前年度比1.4〜1.5倍の売上高になったという。これは、米国による相互関税への対策にもなっている。

 購買については、半導体や電子部品などについては統合できているものの「本格的にスケールメリットを出せるのは共通エンジンができてからになるだろう」(中田氏)という。

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