災害時には実際にどのような行動を取るのかをご紹介します。初めに、指示系統を明確にするため対策本部を建てます。その後、災害の復旧までにどれくらいの時間を要するのかを算出します。本来の工程である「本型」「本工程」で生産するための設備や金型、人員がいつになればそろうのか。この情報をいかに迅速に集められるかが重要です。
部品の場合、並行してどこまで在庫が持つのかを確認し、客先にいつまでに納入する必要があるのかを明確にします。自社や客先、輸送中、倉庫など、在庫は複数の拠点に分かれ、特に海外から輸入している部品は把握するのは簡単ではありません。トヨタでは各段階ごとの在庫をまとめたものをランダウン表といい、緊急時ではこの表を活用します。
在庫情報をまとめ、客先での部品使用予定を加えれば、在庫が欠品する=復旧しなければならないタイミングが分かります。通常は船で運搬しているのを飛行機に変えるなど、物流リードタイムの短縮も考慮に入れた上で、それでも間に合わない場合は代替での生産検討に入ります。国内外問わず、自社内で作れないか、またサプライヤーや競合他社含め代替ができないかを確認し、最終客先に連絡して調整を実施していきます。復旧するまでの計画を立案し、随時報告しながら問題が解決するまで進捗を管理していくのです。
さて今回コロナ禍において自動車業界では緊急時対応はどのように行われたのでしょうか。
2020年2月初旬段階で、中国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により部品の生産、供給が難しくなり、自動車メーカーは調整をする必要がありました。1次サプライヤーは日本で生産していても、2次サプライヤーは中国に工場がある、といったケースが多く、この段階でいくつかの国内自動車メーカーは稼働を止める、生産順を変更といった生産調整を実施しました。
そして3月以降は東南アジア、欧州や北米とCOVID-19によって生産ができない地域がどんどん拡大していきました。世界中がタイミングをずらしながら生産ができなくなる中で、唯一工場が停止していなかった日本でも部品供給の問題や需要減により、4月はかつてないほどの稼働調整が実施されました。5月以降生産は再開されつつあるものの、平常時とは程遠くまだまだ緊急事態は続いているといえます。自動車メーカーとサプライヤーは常に情報をやりとりしながら、休業を含めて生産計画を見直しています。
これまでのBCPでは、自然災害やテロといった緊急事態へ対策が練られており、感染症の拡大や国単位で長期間の経済活動休止が発生することは想定外でした。私も過去に台風や地震などでのBCPや生産復旧の取り組みを実施してきましたが、今回のコロナ禍は全く違います。
通常の災害では被害は特定の地域で一時的に発生し、「復旧はいつになるのか、どれだけ短縮が可能か、計画通りに進むのか」が重要でした。しかし今回は世界中で生産および物流が止まり、一時的な事態ではなく先行きの見えない状況が続き、いつ終わるのかも分からないという初めての事態です。先の需要もはっきりとせず、各社手探りで日々状況を確認しながら対応しているのが現状です。
コロナ禍における反省を踏まえ、製品を生産する場所や複数の代替先を持つなどサプライチェーンの見直しや、在庫設定の在り方の検討が必要になります。今後、自動車業界ではポストコロナの新しいBCPが作成されていくでしょう。
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