では、どういう人がツールベンダーにマッチするのか。
これまでの開発経験のなかで、いずれかのツールを使いこなしてきたという方は多いと思うが、導入を支援する立場となると、それだけで最適な人材とは言えない。その企業にどのような課題があり、どういう使い方が合うのか、どんなカスタマイズが効果的なのかなど、広い視野で考え、提案できる必要がある。そのため、自動車の「モノづくり」を分かった上で、ツールに関する理解がある人、開発などで一定以上の経験を積んでいる人が重宝されるのは間違いない。「実際、完成車メーカーやサプライヤで、コアな設計エンジニアとして活躍していた方が、ツールベンダーの採用に至っている」と関寺氏。
さらに、ツールはどんどん進化しており、操作性が向上し、機能も充実してきている。例えば、かつては設計と解析は別部門が担当していたが、今ではCAE機能を備えた設計ツールも増えており、設計をしながら解析も可能だ。ツール導入のコンサルタントも、何か1つの分野の専門家より、進化するツールや新しい開発手法に興味を持ち、他ツールとの連携も含めて、幅広い活用方法を勉強している人の方が望ましいだろう。
ツールベンダーに転職すると、どのようなメリットがあるのか。「ツールベンダーのお客さまとなるのは、次世代のこと、少し先の未来のことに携わっている方々。未来のための研究、開発に関われるのは大きな魅力」と関寺氏。また今後使われていく技術であるだけに、淘汰されるというリスクも少なく、将来的にも明るいと言える。
もう一つのメリットは、ワークライフバランスを整えやすいことだ。先行開発や研究というお客さま先の仕事は量産開発とは異なり、フレキシブルな働き方をしていることが多く、そこを支援する仕事も同様のメリットを享受できる。実際、メーカーからツールベンダーに転職した方から「残業が減った」という声も寄せられているという。
デメリットもある。例えば直接的にモノを作る仕事ではないので、自分で何かを「作り出した」という達成感は得にくいかもしれない。エンジニアの喜びの一つは、「自分の手で作ったモノが世の中で使われる」ということだろう。それを最も大事にしたいなら、あまり向いていないかもしれない。
しかし、今やツールなしには自動車は作れないと言っても過言ではないだろう。しかも、まだ世にないものを作ろうとしている人たちと、一緒に仕事ができる可能性が高い。当初から転職先としてツールベンダーを考えていたというエンジニアは少ないだろうと思うが、経験の新たな生かし方として、また将来性のある転職先として、一つの選択肢になるのではないだろうか。
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