電子情報技術産業協会は「第5回JEITAベンチャー賞」の受賞企業を発表した。AI圧縮技術のアラヤや酸化ガリウムの薄膜結晶成長技術のノベルクリスタルテクノロジーなど8社が受賞。
電子情報技術産業協会(JEITA)は2020年3月24日、「第5回JEITAベンチャー賞」の受賞企業8社を発表した。同賞はIT/エレクトロニクス技術分野の総合的な発展や経済発展に貢献が見込まれるベンチャー企業を表彰する。2016年1月の創設以来、毎年開催されており、これまでに計24社のベンチャー企業が受賞した。受賞企業には、AI(人工知能)技術開発のPreferred Networks(第1回受賞)やロボットの制御技術開発のMUJIN(第2回受賞)などがある。
審査対象となるのはIT/エレクトロニクス産業発展への貢献が期待される、創業後15年以内のベンチャー企業だ。ベンチャー企業を「成長性」「波及性」「社会性」の3つの観点から総合的に評価して受賞企業を選考する。受賞企業はJEITA新規入会時に2年間回避を免除する「ベンチャー優遇特例制度」の適用や、JEITA会員企業との交流会の設定、CEATEC2020で国内外のスタートアップ企業などを展示する企画エリア「CoCreation Park」出展への優遇措置といった特典が受けられる。
第5回の受賞企業は以下の通りだ。
アラヤはAI技術の1つであるディープラーニング(深層学習)を活用した画像認識技術を開発する企業で、主に製造業や情報通信業、農林水産業向けに事業展開を行っている。
同社では画像認識精度はそのままに、AIモデルのデータサイズを30分の1に圧縮することで演算量を削減する技術を開発している。周囲の状況を自律的に判断して動作する自動車、スマートフォン、ドローン、産業用ロボットといったエッジデバイスが開発可能になるとして評価された。
AIメディカルサービスは内視鏡による画像診断をサポートする、クラウドベースの内視鏡AI診断支援システムを開発する企業だ。がん病変の疑いがある要注意箇所を、熟練の専門医と同等の精度でAIが自動検出する二次読影支援サービスを展開する。
国内研究施設の協力を得て収集した多量の高品質な内視鏡画像をAIの教師データにすることで、99%の精度でのがん病変検出が可能になった。こうした技術面に加えて、海外展開に伴う市場の拡大可能性や事業の社会貢献性も評価された。
サイキンソーはDNA検査を行う「次世代シーケンサー」で人間の腸内フローラ(細菌叢)を調査することで、腸内細菌の種類と割合を解析して病気の可能性を明らかにする企業だ。解析結果から、病気の予防や生活改善につながるアドバイスを行うサービスなどを展開する。
個人差の大きい生物データに対して、AIなどの情報技術を活用することで解析コストの低減やスピードの改善を図り、正確性の高い健康管理プラットフォームを開発することを目指している。社会全体の高齢化が進む中で、こうした健康管理プラットフォームの開発、確立は大きな意義を持つとして評価された。
ダイナミックマップ基盤は高度な測位技術によって誤差数cm程度の精度を実現した高精度3次元地図データの生成/統合化技術を開発した企業だ。安全性が高い自動車の自動走行支援システムの実現に向けて、全国の高速道路や自動車専用道路の自動走行用地図の作製事業を推進している。
3次元地図データは自動運転車両実装による実証実験への適用が引き続き期待される。また、除雪分野やインフラ分野など、さまざまな分野への応用可能性が見込まれる点が評価された。
次世代パワーデバイスの基板として期待される酸化ガリウム(Ga2O3)の大口径単結晶製造技術や、薄膜結晶の成長に必要なホモエピタキシャル成長技術を確立し、デバイス事業への展開を推進する企業である。
同社の技術を活用すれば、高耐圧、低損失、高周波駆動、高温動作といった高性能なパワーデバイスが開発可能になる酸化ガリウム基板を効率的に製造でき、それによりデバイスの低コスト化も実現できる。耐過酷環境デバイスや高感度イメージセンサー、シンチレータといった幅広い機器への応用が期待できる点が評価された。
PicoCELAは独自の無線多段中継技術「PicoCELA Backhaul Engine」を開発し、工場内や建設現場、商業設備、イベント会場における無線通信環境の提供事業を展開している企業である。ケーブル配線工事を不要化することで、手軽に無線環境を構築できる。
現在はWi-Fi環境の構築を事業の中心に据えているが、5Gの本格的な普及に伴い、特にローカル5Gの分野において重要な基盤技術として採用数の増加が見込まれる点が評価された。
ボスコ・テクノロジーズはProxy型ゲートウェイ方式のシステム構成をとるICTインフラ向け操作監視/制御ソリューション「Smart Gateway」などを提供する企業だ。Smart Gatewayを導入したユーザーは、強固なセキュア通信を実現する一方で、ユーザー操作のログ取得など、さまざまな機器制御を統合管理することが可能になる。
同社の製品はメガバンクや大手通信事業会社、官公庁、自治体などで多数の採用実績がある。Smart Gatewayを導入することで、大量のPC、サーバ、ネットワーク機器の運用と管理に関する手間とコストを削減できる点が評価された。
リモハブはIoT(モノのインターネット)技術を活用して、在宅での適切な心臓リハビリを実現する遠隔医療システム「リモハブシステム」を開発する企業だ。クラウドを介して患者が自宅から心電波形などの生態データを医療機関に送信することで、医療機関にいる医療従事者はデータに基づいた指導、管理を実施できる。
心不全患者にとってリハビリのための通院は困難である。医療従事者による適切な指導、管理が在宅でも可能になれば、患者にとって低負担のリハビリを継続的に実施することが可能となる。患者のQOL(クオリティー オブ ライフ)向上の他、高齢化社会における医療費削減が期待できるとして評価された。
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