電子情報技術産業協会(JEITA)は第3回 JEITAベンチャー賞の表彰式を開催。成長性・先導性、波及性、社会性の視点から、電子情報技術産業における総合的な発展と併せ、経済発展にも貢献し得るベンチャー企業を審査および選考した上、表彰する。今回は8社のベンチャー企業が受賞した。
電子情報技術産業協会(JEITA)は2018年3月14日、第3回 JEITAベンチャー賞の表彰式を開催した。JEITAベンチャー賞は2016年1月の創設以来、毎年開催し、成長性・先導性、波及性、社会性の視点から、電子情報技術産業における総合的な発展と併せ、経済発展にも貢献し得るベンチャー企業を審査および選考した上、表彰する。審査対象は、創設後15年以内で、電子情報技術産業発展への貢献が期待されるベンチャー企業。なお受賞企業はJEITAの入会金と2年間の一般会費が免除となり、JEITAによる情報発信支援や、企業交流の支援など受けられる。
JEITAは、CPS(サイバーフィジカルシステム)およびIoT(モノのインターネット)基盤を活用した競争力強化や、イノベーションエコシステム構築に向けて、ベンチャー企業支援とJEITA会員とスタートアップ企業との共創と連携、エコシステムの構築支援を実施してきた。JEITAベンチャー賞もこの取り組みの一環である。
第3回の受賞企業は2018年10月に開催予定の「CEATEC JAPAN 2018」で新設する「スタートアップ・ユニバーシティエリア」に優先的に出展できる。同エリアは、「スタートアップ、大学、大企業、投資家を結ぶ」をテーマにしており、展示の他、起業家との座談会やネットワーキングイベントも実施予定だ。
第3回は以下6社のベンチャー企業が受賞した。
アスターは秋田県横手市を拠点とする企業で、同社オリジナルのコイル製品やLED製品、融雪製品などを開発・製造している。同社独自の積層技術による「アスターコイル」を実用化。理想的なモーターコイルの形状設計により、従来の1.5倍の高密度化を実現し、かつ放熱性にも優れているという。同技術はモーターの高出力化および小型化に有効であり、車載向けのモーターの他、航空宇宙、家電、発電など幅広い分野への適用も想定でき、省エネルギー効果と産業競争力の強化へつながることが期待できる点が評価された。
「素晴らしい賞をこんなに早くもらえるとは思っていなかった。アスターコイルの技術は自分たちのものとは考えていない。官庁や企業、さまざまな関係者に助けられ、今に至った。この技術をぜひ皆でシェアできる形にしたく、いろいろな策を考えている。企業数社から引き合いが来ている」(アスター 代表取締役 本郷武延氏)
ABEJAはAI(人工知能)によるディープラーニング技術を駆使したビッグデータ解析技術を得意とするベンチャー企業で、AIプラットフォーム「ABEJA Platform」を開発する。同社では小売業向け店舗解析ツール「ABEJA Insight for Retail」を提供している。店舗で取得したカメラ画像に基づき、顧客数や年齢層、店舗内導線などを分析し、さらに天気や地理情報まで加味した上で、店舗の業務改善の在り方が提案可能だとしている。店員の感覚やノウハウといったアナログな感覚に頼ることなく、科学的データに裏打ちされた店舗設計が可能となるという。同技術がIT専門家がいない店舗においても、AIの利活用が推進可能であって、海外展開にも期待できる点が評価された。
「AIプラットフォームの運用によるさまざまな産業構造の改革をけん引するというミッションをわれわれは持つ。産業界のAI活用を促進することで、より豊かな社会にするべく頑張っていきたい」(ABEJA 取締役CRO 緒方貴紀氏)。
Hmcommは産業技術総合研究所(以下、産総研)発のベンチャー企業で、社名は「Human Machine Communication」(人と機械との対話)の略である。産総研が独自開発したの音声認識技術を実用化し、音声認識に特化したAIプラットフォームを用いたソリューションおよびサービスを提供する。同技術は騒音環境下での音声認識に優れており、車両や工場・プラントの機械装置におけるAIイオン検知による故障検知および予知へ活用できる。企業や店舗の窓口業務やコールセンターなど対人業務における会話のテキスト化、無人の音声受付などが実現可能だ。同社の技術やサービスが今後、音声ビッグデータのビジネスリソースとしての利活用への貢献が期待される点が評価された。
「コンシューマーで使われる技術というより、実社会のビジネスを効率化することや、今後の社会問題解決への新たな技術の1つと考えている。今回の表彰をきっかけに技術をますます磨き、皆さんに使ってもらえるソリューションを届けたい」(Hmcomm 代表取締役CEO 三本幸司氏)
ZenmuTechは、オープン・セキュリティインフラストラクチャの「ZENMU」を開発する。暗号化技術と分散技術を組み合わせる「秘密分散技術」により、情報を「意味のないデータ」に変換した上で複数に分割し保管することで、情報漏洩を事実上不可能にする技術(情報の無意味化)である。セキュリティ対策コストの大幅削減が見込めるとしている。認証関連にも応用できる。この技術を活用したソリューションが、サイバー攻撃に対して有効な防御手段となり得ることでIoTデバイスの一層の利用普及が可能となるとして評価された。
「大企業とのオープンイノベーションによりいろいろなソリューション展開ができている。当社のSDKもパートナー企業に提供しソリューションの独自性を高めて出荷してもらっている」(ZenmuTech 代表取締役社長 田口善一氏)
PGVは大阪大学COI発のスタートアップベンチャー企業であり、社名は「Perpetual Gratitude & Voyage」の略である。大阪大学で開発された微小信号処理技術とフレキシブルエレクトロニクスをベースに、パッチ式脳波センサーの製造・販売と、脳情報のビッグデータを活用した脳波ビジネスを提供する。同社のパッチ式脳波センサーは額に収まるほどのサイズのシート状(厚さ6mm、重さ24g)で、かつ無線測定が可能だ。同社では、既存の大型特殊装置と同等レベルの計測精度で、体温計感覚で家庭などで誰でも手軽に脳波測定ができることを目指しており、今後は医療やヘルスケア、睡眠、注意力モニタリング、ニューロマーケティングといった幅広い領域での発展が期待できるとして評価された。
「この技術は“脳の翻訳機”のようなイメージであり、各家庭でセルフケアができる世界を目指している」(PGV 代表取締役社長 柳澤修氏:柳は旧字体)
フォルテは青森市を本社とするベンチャー企業であり、IoT端末を開発している。同社では骨伝導システムによる騒音下などにおける音声ソリューション、車両など移動体や人の管理のための位置情報ソリューションを提供する。地域拠点の特性を生かし、地方自治体や観光業との連携により、地域産業の振興につながるサービスの社会実装の実証実験に取り組み、イグジットを目指す地方発ベンチャーのロールモデルとしても期待できるとして評価された。
「“話す・聞く”を、どのような環境でも、ユーザーに優しいインタフェースで実現したくやってきた。今後はAIの技術なども利用しながら、工場や空港などさまざまな場所での活用が見込めると考える」(代表取締役社長 葛西純氏)
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