また、モノづくりに挑戦してみての総括として佐々木氏は「まずは作ってみるということが重要。これはベンチャー企業がもともと得意としている部分なので、モノづくりにおいてもその姿勢は必要だ。また、カタチにしたものに“意味のある数字”を持たせることで、モノの魅力を社内外に伝える努力もしなければならない。後はリリースしてみなければ分からないため、モノづくりにおいてもアジャイル型の開発で小さく積み上げていくことも必要だ」とし、こういった考えから「ポケットチェンジの開発に3Dプリンタを活用することが非常にフィットした。3Dプリンタがなかったらまだポケットチェンジの端末を世に送り出せていなかったのではないか? というくらい3Dプリンタをフル活用している」(佐々木氏)。
その言葉の通り、ポケットチェンジの開発では積極的に3Dプリンタが活用されている。それは単なる試作だけではなく、最終製品のパーツ製造も含んでおり、現場への実導入後も改善を繰り返し、新たなパーツを3Dプリンタで製造して、取り換えるということが当たり前のように行われている。
例えば、硬貨投入口や電子マネーのタッチ部といった実際にユーザーが直接触れる部分にも3Dプリント製パーツを採用する他、硬貨の仕分けを行う内部機構も3Dプリンタで作られている。
「まだ設置台数が少ないころは、ホビーユースのFDM(熱溶解積層)方式3Dプリンタでパーツを製造していたが、台数も増え、安定した品質の3Dプリント製パーツを製造したいというニーズも高まり、ストラタシスのFDM方式3Dプリンタを導入するに至った」(佐々木氏)。また、わずかな数であれば自分たちでパーツを造形するが、まとまった保守パーツが必要な場合などは、ストラタシスが展開する造形サービス「DFP(Digital Factory Portal)」を活用しているという。
「よく『3Dプリント製パーツを最終製品に(ユーザーの目に見えるところに)使っている』というと驚かれるが、ユーザーはサービス利用が目的なのでそれほど気にしていない。ポケットチェンジは全て自社サービスであり、装置の出荷台数もサービスを開始してから4年弱で約50台と少ないため、3Dプリンタによる活用メリットを多く享受できている。試作/開発のスピードはもちろんのこと、量産においても金型を起こすことなく、3Dプリンタでパーツ製造が可能なため、スピードとコストの両面で効果を実感できた」(佐々木氏)
また、3Dプリンタならではの工夫として、“パーツの色分け”によるメンテナンス性向上を挙げる。「何かトラブルが発生した場合、ポケットチェンジは設置場所の担当者が一次対応するため、メンテナンス性が重要となる。3Dプリンタであればパーツごとに自由に色分けできるため、一次対応者から問い合わせがあった場合も『白いパーツを外して、赤いケースを持ち上げて〜』といった具合に分かりやすく指示ができる。こうしたアイデアをすぐにモノに落とし込める点も3Dプリンタのメリットといえるだろう」と佐々木氏は述べる。
最後に、イノベーティブなモノづくりに必要な視点として、佐々木氏は「モノづくりはWebアプリケーション開発以上に初期投資に時間とコストがかかるため、どうしても冒険しにくく、堅実なものを作ってしまいがちだ。また、ビジネスとしての説明のしやすさから『モノありき』『技術ありき』でスタートしてしまうことも多く、どうしても世の中にあるものに縛られてしまう傾向にある。必要なことは、とにかくアイデアに形を与えてやること、そして、それを早く市場に出してデータをためることだ。イノベーティブなモノづくりを実現するには、このサイクルを早く回すことが重要となる。その際、3Dプリンタの活用が不可欠となる。試作開発のみに活用するのはもったいない」と聴講者に訴え掛けた。
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