京セラが世界初のクレイ型リチウムイオン電池、粘土状の電極材料が違いを生む組み込み開発ニュース(2/2 ページ)

» 2019年10月03日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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一般的なリチウムイオン電池との違いは粘土状の電極材料

 一般的なリチウムイオン電池とクレイ型リチウムイオン電池の最大の違いは、電極材料と電解質だ。一般的なリチウムイオン電池では、集電体とセパレータの間に電極材料を配置してバインダーで接着し、電解液で満たしている。一方、クレイ型リチウムイオン電池では、あらかじめ電解液を練り込んだ粘土状の電極材料を厚塗りしている。この構造によって、高安全性、長寿命、低コストという3つの特徴を実現した。

クレイ型リチウムイオン電池の構造と3つの特徴 クレイ型リチウムイオン電池の構造と3つの特徴(クリックで拡大) 出典:京セラ

 1つ目の高安全性は、電解液を液体の状態で使用していないクレイ型電極、厚塗りの正極と負極の材料とセパレータ、外装フィルムから成るセル構造、正極材料として安全性の高さで知られるリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の採用などによるものだ。圧壊試験、過充電試験でも発煙や発火は認められなかったという。

高安全性長寿命 クレイ型リチウムイオン電池の高安全性(左)と長寿命(右)(クリックで拡大) 出典:京セラ

 2つ目の長寿命は、クレイ型電極におけるバインダーの不使用、練り込む電解液の選定、住宅用に最適化した電池の設計や制御が貢献している。「動作温度は−20〜40℃で、国内ほぼ全ての環境で利用できる。その寿命保証として、一般的な住宅用蓄電システムが10年のところを15年に伸ばすことができた」(竹下氏)。

 3つ目の低コストは、部材コスト、製造コストの両方を低減できるとしている。部材コストについては、一般的なリチウムイオン電池の電極厚さが50μ〜120μmなのに対して、クレイ型リチウムイオン電池の電極厚さは、粘土状の電極材料を厚塗りするので300μ〜400μmになる。このため、集電箔やセパレータの使用数が少なく、バインダーも用いないので、部材コストは20〜40%削減できる計算だ。製造コストについても、クレイ型リチウムイオン電池は電極材料を形成する工程をシンプルにでき、電解液を注入する注液工程も不要になる。

部材コスト製造コスト クレイ型リチウムイオン電池の部材コスト(左)と製造コスト(右)(クリックで拡大) 出典:京セラ

 住宅用定置型蓄電システムは、段階的に安価にしていく価格目標を政府が示しており、2020年度には1kWh当たり9万円以下とされている。京セラ ソーラーエネルギー事業本部 副本部長の小谷野俊秀氏は「低コストのクレイ型リチウムイオン電池によって、この価格目標を達成できるようにしたい」と意気込む。

次世代クレイ型リチウムイオン電池の開発も

 住宅用定置型蓄電システム向けでの商品化が始まったクレイ型リチウムイオン電池だが、今後は工場や商業施設など他の定置型蓄電システム向けにも展開を広げていきたい考え。また、電気自動車などの車載用途への展開も可能だという。

 この他、固体電解質セパレータを採用した次世代クレイ型リチウムイオン電池への展開についても発表した。従来のセパレータと異なり、固体電解質セパレータであれば正極と負極の間はリチウムイオンだけが移動することになる。この場合、正極と負極のそれぞれで電極材料と電解液を最適化できるため、より高いエネルギー密度や長寿命を実現できる可能性がある。「一般的なリチウムイオン電池では、正極と負極で共通の電解液を用いる必要がある。しかしクレイ型リチウムイオン電池は、セパレータにより正極側と負極側が分離したセル構造をとれるので、こういった開発が可能になる。固体電解質セパレータの開発が最大の課題だが、それをブレークスルーできれば可能性が開けるだろう」(竹下氏)としている。

次世代クレイ型リチウムイオン電池の構造 次世代クレイ型リチウムイオン電池の構造(クリックで拡大) 出典:京セラ
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