「第29回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2018)」(2018年11月1〜6日、東京ビッグサイト)の基調講演に、日産自動車 取締役副社長で生産事業担当の坂本秀行氏が登壇した。電気自動車(EV)「リーフ」の初代モデルと、2代目となる現行モデルの開発を担当した同氏が、EVの進化に必要な技術を生産の側面から語った。
「第29回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2018)」(2018年11月1〜6日、東京ビッグサイト)の基調講演に、日産自動車 取締役副社長で生産事業担当の坂本秀行氏が登壇した。電気自動車(EV)「リーフ」の初代モデルと、2代目となる現行モデルの開発を担当した同氏が、EVの進化に必要な技術を生産の側面から語った。
坂本氏はクルマの電動化について、内燃機関にとって代わることと、内燃機関ではできないことを実現することが目標だと切り出した。内燃機関ではできないことというのは、高い応答性や出力特性、静粛性や走りの滑らかさだという。モーター駆動ならではの特徴をクルマで生かし、長い走行距離を確保するには、バッテリーがより多くのエネルギーを蓄える必要がある。しかし、バッテリーが重くなると、それだけでエネルギーを消費する要因となってしまう。そのため、「電動化をやり遂げるにはバッテリーと軽量化が重要だ。特に、軽量化は今までのクルマとは違う次元で要求される」と坂本氏は強調した。
駆動用バッテリーの技術課題は、重量当たりのエネルギー密度を上げることにある。これは、リーフの初代モデルから現行モデルまでの間にも進化している。初代リーフはバッテリー容量が24kWhで、走行距離は200kmだった。現行モデルは、初代リーフのバッテリーと同じ容積で軽量化を達成しながら、容量を40kWhに増やし、走行距離は2倍の400kmを確保した。
リーフの進化でポイントになったのは電極の設計の見直しだ。初代モデルでは、構造が安定しており、リチウムイオンの析出による劣化が起きにくい「スピネル構造」だった。「安全性を考えた保守的な設計」(坂本氏)からフルモデルチェンジで層状の構造に変更し、大量のリチウムイオンを蓄えられるようになった。これによりエネルギー密度が高められた。設計を変更できたのは、スピネル構造での実績やノウハウを反映したのが大きい。
また、駆動用バッテリーの熱暴走や劣化を防ぐための開発では、テレマティクスサービスを通じて収集、蓄積した車両の状態に関するデータや、大型放射光施設「SPring-8(Super Photon ring-8 Gev)」が貢献した。「充放電でバッテリー内部のどの成分がどのように変化するか、蓄積できるエネルギー量がどう変動するか、解析することで劣化のメカニズムが明らかになった。成分のコントロールや添加剤の選択によって、性能を保証する期間を延ばすことができた。これまでは5年相当の使用履歴でエネルギー蓄積量が十数%低下していたが、これを8年16万kmまで保証できるようになった」(坂本氏)。
雨が降っている中でも漏電せずに充電できるか、衝突や脱輪、落下によって床下の駆動用バッテリーに衝撃が加わっても発火しないか、という車両全体での安全性能も重要な開発課題の1つだという。「乗員だけでなくバッテリーを含めた高電圧ユニットを、車体とサスペンションの構造で守らなければならない。EVは従来のクルマよりも要求特性が増える。EVは構造が簡単だ、作れる企業が多くなる、といわれているが、はっきり言って難しいだろう」(坂本氏)。
坂本氏は今後のリチウムイオンバッテリーの進化にも触れた。「2020〜2023年ごろにもう一段進化し、走行距離600kmが見えてくるだろう。同じ走行距離でもコストを落とすことができるようになる。その先に全固体電池がある。電解液のリチウムイオン電池が進化しつつ、電解質が液体から固体に世代交代する。全固体電池は2020年代後半から量産できるようになるとみている」(坂本氏)。
全固体電池のメリットは、電解液を使う場合に比べて安全性が高いことだ。「可燃性ガスが発生せず、熱的限界も高い。エネルギーの充放電の制約が少なくなり、エネルギー密度が高い材料も電極に使えるようになる。熱で全ての制約が決まるリチウムイオン電池に自由度が生まれる」(坂本氏)。
しかし、全固体電池の量産に向けた最大の課題は生産技術だ。全固体電池は、電極材を均一に混ぜ合わせてコーティングし、乾燥させてプレスする工程で生産する。「液体の電解質の長所は、電解液と電極が完璧に接触することだ。これに対し、固体と固体の接触では隙間ができるので難しい。十分に、均一に接触しなければならない。ばらつきがあると、電気が流れる部分と流れない部分が出てくるため、性能が極端に落ちる。十分に混ぜ合わせて密着させることが量産で実現できれば、全固体電池は早い時期に実現できるだろう」(坂本氏)。
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