東大物性研が研究機関向けヘリウムリサイクル事業を開始、将来的には企業向けも研究開発の最前線

2019年10月1日から、東京大学物性研究所(東大物性研)がヘリウムガスの再液化事業をスタートする。研究用途だけでなく産業用途でも広く利用されているヘリウムは供給不足に陥りつつあるが、それをリサイクルによってカバーしたい狙いがある。

» 2019年10月02日 06時30分 公開
[林佑樹MONOist]

 2019年10月1日から、東京大学物性研究所(以下、東大物性研)がヘリウムガスの再液化事業をスタートする。

 国内におけるヘリウム事情は、輸入依存率100%であり、産出国の情勢に大きく左右されてしまう。産出国は米国、アルジェリア、カタール、ロシア、ポーランドに限られており、世界生産量の約60%を占める米国は2021年に米国外への販売を停止予定、同約30%を占めるカタールは周辺国との情勢不安に陥っている。2019年時点でもヘリウムは値上がり傾向にあり、回収・再液化施設を持たず、スポットでヘリウムを購入している研究機関では、実験規模縮小、もしくは実験停止といった事態も起きている。

東大物性研のヘリウム液化施設 東大物性研のヘリウム液化施設。国内では最大規模になる(クリックで拡大)

 そういった背景から、以下の記事で紹介した通り、東大物性研はリサイクルシステムの模索を進めており、今回の事業化につながった。

 ヘリウムリサイクルの対象とするのは、まず研究所や大学などの研究機関で、ヘリウムの液化を行っていない施設からの依頼を請け負う。これは研究所や大学へのアンケートの結果から決まった方針であり、ヘリウム再液化設備を持つ施設よりも、回収設備のあるなしに関係なく、液化施設を持たない施設の状況が深刻であったためだ。

 依頼機関側でガスを回収し、物性研に運搬。物性研に手数料を支払い、ヘリウムを液化するといった流れで、物性研では月間5000l(リットル)の請負を想定。最低持ち込み量を定めており、液化して100l以上になるガス量からとしている。

ヘリウムリサイクルシステムの概略図 ヘリウムリサイクルシステムの概略図。回収や運搬コストは依頼機関が負担。また液化手数料も徴収する(クリックで拡大)

 説明会では、東大物性研 ナノスケール物性研究部門 教授で日本物理学会 副会長の勝本信吾氏も登壇。勝本氏は「日本物理学会内でもヘリウム不足の声が大きくなっている。ヘリウムの再液化の動きを広めるために、高圧ガス保安法の規制緩和が必要であり、日本物理学会と日本化学会、低温工学・超電導学会、応用物理学会などで共同声明を出し、関係省庁への働きかけも進めていく」と語った。

東大物性研の勝本信吾氏低温液化室の見学会 東大物性研の勝本信吾氏。日本物理学会 副会長も務める(左)。説明会と併せて行われた低温液化室の見学には企業からの参加もあった。解説を担当していたのは、低温液化室の土屋光氏(右)(クリックで拡大)
質問が飛ぶヘリウム貯蔵機能 ソケットサイズや、最速で液化ヘリウムを受け取れるまでの時間などについての質問が飛んでいた(左)。東大物性研には、最大1万1250m3のヘリウム貯蔵機能がある(右)(クリックで拡大)

 東大物性研としては、ヘリウムリサイクルシステムの存在を知ってもらい、ヘリウム回収設備のない機関や小さい研究室にまでリサイクルを浸透させていきたいという。回収設備や、回収・運搬を一括して行える移動式ヘリウムガス回収装置の導入も期待している。また、高圧ガス製造設備の対象外となるガスバックでの回収、移動式高圧ガス製造設備を使用する案もある。

 今回の事業でモデルケースを作り、全国に40カ所ほどあるヘリウム再液化施設でも再液化請負の流れにつなげていき、民間企業やヘリウムサプライヤーからの依頼にも対応していくことを目標としている。

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