おっさんもワクワク、スーパーカミオカンデの超純水タンク内部が12年ぶりに公開研究開発の最前線(1/3 ページ)

12年ぶりにスーパーカミオカンデのタンク内部が公開された。若手への技術継承も兼ねる改修作業が進められている。

» 2018年06月13日 10時00分 公開
[林佑樹MONOist]

 2018年6月10日、岐阜県神岡町にある宇宙線研究所「スーパーカミオカンデ」において、報道陣向けの見学会が開催された。スーパーカミオカンデの改修工事に伴う形で実施されたもので、約12年ぶりとなるタンク内部の公開もあった。今回はその様子をお送りする。

スーパーカミオカンデ12年ぶりに公開されたタンク内部 岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデ(左)と12年ぶりに公開されたタンク内部(右)(クリックで拡大)
J-PARCにあるニュートリノビームライン J-PARCにあるニュートリノビームライン。写真は一般公開時のもの。2018年の一般公開は8月19日だ(クリックで拡大)

 スーパーカミオカンデは、1996年からニュートリノや陽子崩壊の観測を行っている研究施設で、世界最大となる直径39.3×高さ41.4mの水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置を有している。前身のカミオカンデ時代を含むと、2回のノーベル賞の受賞に関わる施設であるため、その名前を知る読者も多いだろう。

 もっぱら、宇宙から届くニュートリノの観測のみというイメージをもたれがちだが、約295km離れた茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設「J-PARC」からニュートリノビームを撃ち込むT2K(Tokai to Kamioka)実験によるニュートリノ振動の観測も行っている。

 なお、ニュートリノとは、物質を構成する最小単位である素粒子の1つである。同じ素粒子で、ニュートリノよりもはるかに身近な電子と比べると、いまだによく分からない物質で、スーパーカミオカンデによって質量があると分かった段階だ。太陽から地球に届くニュートリノは地球表面1m2当たりで毎秒600兆個。地球を貫通する過程で反応する確率は0.00000002%と低く、太陽以外にも全方位からやってきて、われわれの身体を突き抜けている。

報道陣はクリーンルームウェアに着替え簡易的だが遮蔽区域を用意タンク上部の様子 報道陣はクリーンルームウェアに着替え、ヘルメットや取材機材をアルコール清掃してからタンク上部へ(左)。作業区域とタンク上部の空間には、簡易的だが遮蔽区域が用意されていた(中央)。タンク上部の様子(右)(クリックで拡大)

4度目の改修工事は超新星背景ニュートリノの観測性能の向上が目的

 今回の改修工事は2018年5月31日から開始されており、2018年内のニュートリノ観測再開を予定している。4度目の改修工事(2008年の信号系統のアップデートを含めると5度目)の目的は、超新星爆発で生じたニュートリノ、超新星背景ニュートリノの観測性能の向上だ。1987年にカミオカンデで初観測しているが、以降は観測できていない。宇宙全体からすると、超新星爆発は数秒に1回くらいは起きており、超新星爆発背景ニュートリノは人間の手のひらを毎秒数千個は通り過ぎていると考えられている。

 そうであれば、スーパーカミオカンデのタンク内で年に数回の反応があるハズなのだが、他のノイズに埋もれてしまい、区別ができていなかったという。そこで超純水にガドリニウムを混ぜ、最も反応しやすい反電子ニュートリノの観測を目指していく。東京大学 宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設長の中畑雅行氏は「とても特徴的な光で、信号ノイズと識別しやすくなる」と語っている。

タンク内の水と反電子ニュートリノが反応した場合のイメージ タンク内の水と反電子ニュートリノが反応した場合のイメージ。反電子ニュートリノが反応した際に生じる中性子がガドリニウムにつかまり、ガンマ線を放出。そのガンマ線もチェレンコフ光を発するため、識別しやすい発光になる(クリックで拡大)
中畑雅行氏森山茂栄氏 東京大学 宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設長の中畑雅行氏(左)と同大学 宇宙線研究所 教授でタンクオープン作業責任者を務める森山茂栄氏(右)
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