「獺祭」を造るのは杜氏や蔵人ではない!? ピンチをチャンスに変えた旭酒造の経営:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
しかし、これらの取り組みは最初から狙って行ってきたものではなく、失敗の副産物だったという。桜井氏は「実は(データ型の酒造りへと進んだ要因の1つに)杜氏に逃げられたことがある。それで仕方なく、残された社員と酒造りを始めた」と桜井氏は当時を振り返り、ピンチがチャンスとなったことを強調した。
原材料の調達についてもピンチがチャンスとなった例がある。獺祭は酒造りで主流となる「山田錦」しか使わない。年間1万トンを使用するが、特に最高品質といわれる兵庫県産の山田錦の購入ルートを確保することにも当時は大変苦労したという。例えば、農業をデータ化してコメ作りを行えばうまくいくと考えて、提案したこともあったようだ。ところが、これは農家のやる気というものも関係しており、成功するまでには至らなかった。しかし、米の収量を増やすための提案を重ねることで、最終的には購入ルートを確保することができた。山口県は酒米の主産地ではないため、他県から仕入れるしかなかったが、結局はこの苦難が好結果につながっている。
日本酒に対するユーザーの嗜好にも、戦後に大きな変化があった。高度成長期に酒の価格が安くなり、ただ酒を飲むだけであればいくらでも飲めるようになってきた。ある程度の金を払えば、酒を浴びるように飲める。そうした酒の飲み方に対して、桜井氏は「いい酒を少しだけ楽しむ。『大量販売の論理から顧客の幸せ志向の商品』へと酒に対する要求が変わっていくべきだ」と考え、獺祭の販売を進めた。
結局、この考え方に基づき獺祭が売れるようになったが、桜井氏によると「当時、小規模だったわれわれは負け組であり、従来のビジネスのやり方では勝てないと考えていた」とピンチをチャンスにしたことにより実現できたとしている。低価格の商品を大量販売するのではなく、原価をかけて、いい酒を造る方向に酒蔵の方針を決めたことがプラスに働き、売り上げ全体も伸びてきた。
そして、桜井氏は「日本酒は日本の歴史と文化により出来上がってきた酒であり、そこに伝統の手法がある。しかし、われわれはそれに固執しない。日本酒の造り方は、根本は変わらないが、時代によって変遷している。それは、その時代の造り人が工夫をしていたからだ。獺祭は杜氏や蔵人が造るのではなく社員が造る」と酒造りの基本的な考えを紹介した。
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