モノづくりにおける「ITの価値」について考察する本連載。最終回となる今回は、「1人完結型デジタルセル生産」を作り上げた筆者が、ITとモノづくりの理想的な関係について紹介する。
前回の「アナログ手法でできなかったことはITシステムを入れてもできません」では、モノづくりでの実例をベースに「あくまでもITはツールでアナログでの試行錯誤が重要ですよ」ということを訴えた。最終回となる今回は、経営のツールとしてのIT活用をどう位置付け、モノづくりにどのように活用していくべきなのか、私の考えを紹介するつもりだ。
3回の連載の全てに実例として引き合いに出してしまって恐縮であるが、「1人完結型デジタルセル生産」(関連記事:明るく楽しい職場からしか良い物は生まれない)構築時に大きなハードルとなったのは、以下の3つのことだ。
この3つのハードルを越えるために私が考えたのが「デジタルモノづくり」(図1)である。
デジタルモノづくりとはすなわち、「人間の弱点」をITをはじめとするデジタル技術で支援し、「手先の器用さ」「向上心・好奇心」などの人間ならではの特性を生かすという考え方だ。人間の「集中力」「注意力」は長時間続くものではない。また「もの忘れ」は誰にでも起きて当然である。こうしたモノづくりの面から見た人間の弱点をデジタル技術で補うのだ。
「今日も一日不良品を作らないように、集中力と注意力を切らさずに頼むよ!」と工場長が朝礼で怒鳴ったところで、不良は起こる。そもそも工場長自身が就業時間中ずっと集中力と注意力を保つことはできないだろう。
また、記憶力が完璧だったらクイズ番組は成り立たない。私は高校時代に日本史の先生に「年号を覚えて何になる! 歴史的事実を踏まえてその当時の世界の状況と日本の状況をもっと分かりやすく教えるべきではないのか」と幾度となく教師にかみ付いたことがあるが、記号の記憶などでは人間は機械にかなわないだろう。
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