これらの「弱点」をデジタル技術で支援することが重要だ。例えば、以下のような取り組みが考えられる。
「集中力」と「注意力」には3次元CADツールを駆使して設計工程での「徹底したポカヨケ」を行う。「記憶力」に対しては分かりやすいデジタルマニュアルで支援するというわけだ。
その支援を受けて、組み立て作業者は自らの手先の器用さを最大限に生かしてモノづくりに励む。人手で行う場合、作業ミスは常に発生する可能性があるが、そこは「デジタル支援」により未然に防ぐ。これは自動車業界の「ぶつからない車」に代表される安全運転支援システムに似ている。このシステムはあくまで「支援」であることがポイントだ。もし自動車が全て自動運転になってしまっては「運転する喜び」がなくなってしまう。同様に組み立て作業からも「モノづくりの喜び」を奪ってはならないのだ。
「今自分が組み立てている製品はどんな国のどんな人にどんな使い方をされて喜ばれるのだろう?」
この思いを感じることにより「モノづくりの楽しさ、うれしさ」を通じた達成感が得られる。そして「もっとうまく組み立てたい。新製品に果敢にチャレンジしたい」というたゆまぬ向上心が生まれ、最終的には「私はこの手で顧客に喜んでいただける製品を作っている」という良い意味でのプライド(=自己実現)につながる。もちろんこれは「1人完結型セル生産」だからこそ実現できることだ。デジタルの支援を受けることで、アナログ技能もさらに進化を遂げる。
「デジタル支援システム」を考え、作り上げるのはもちろん生産技術担当のスタッフだ。良い支援システムを作り上げたスタッフには、現場からの称賛とともに情報が得られる。実際の現場のシーンとしてはこのような感じだ。
「この仕組みのおかげでとても楽になったよ、ありがとう。実は今こんなことで困ってるんだけど、なんとかならない?」
まさに「仕事の報酬は仕事」なのだ。生産技術スタッフは自らの仕事を通じ、さらに高度なシステム作りに向かう。これもまた仕事での達成感と自己実現につながっていく。
「デジタル技術者」と「アナログ技能者」がITを通じて共に進化する。これが「モノづくり力の継続的向上」であり、「人づくり」なのだ。
「企業は人なり」は、古くから言い伝えられてきた名言だ。人材育成なくして競争力向上がないことは、経営者の皆さんなら十分ご承知だと思う。もう一度「わが社は明るく楽しく仕事ができているだろうか?」という観点で社内をゆっくりと歩いていただきたい。「明るく楽しい現場で社員自らが能力向上を目指す」という社風が出来上がると、第1回の「経営者の皆さん、ITっていうのは『壁を壊す道具』なんです」で述べた「意識の壁の崩壊」は、そう遠くない時期に訪れるはずだ。
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