生産面でのメリットも追求した。マルチリンク式VCR機構は「シャフトやピン、平軸で構成するなどスペシャルなものがない。エンジンを手掛けてきたサプライヤーであれば作ることができる構成となっている」(木賀氏)という。また、既存エンジンとボアピッチを変えていないので、ボアのホーニング機械なども流用できる設計とした。
一方で、マルチリンク式ならではの課題も少なくない。「マルチリンク式VCRでは、てこの原理でクランクピンに従来の1.9倍の圧力がかかる。圧力をいかに小さくするかに苦心しており、これが開発に20年もかかっているゆえんでもある」(木賀氏)とした。その対策としては「通常コネクティングロッドは同方向から締めるが、生産部門に無理を言ってボルトを互い違いに締める構造とした。これにより荷重の上昇につながるピンの距離を縮めた」(同氏)。
その結果、最大応力点の力を25%抑制した。さらにボルトも『16T』を新規で開発した。「ボルトは小径にして慣性力を下げた。また、最新の解析技術を駆使してすべり軸受けの構造を変更して面圧を均一化した。どこから音が出るか分からないから、音の解析も苦労した」という。
既存のエンジンと異なる構造のため、生産面での課題も生まれた。VCRエンジンの組み立て工程では「クランクを宙吊りにして締め付けを行っている。これは生産を担当する横浜工場に発案してもらった」といい、さまざまな部門の知恵を結集することで「世界初」(日産自動車)の量産化にこぎつけた。
今回日産自動車が開発したVCRエンジン「VCターボ」は、直列4気筒、排気量2.0lのターボエンジンで、既存のV型6気筒エンジンの排気量3.5〜4.0lをカバーする想定だ。動力性能についてはV6の3.5lを軸としている。3.5lのV6に比べて、従来の排気量2.0lのダウンサイジングターボでは燃費が15%改善し、トルクは出るが出力は少し低下するという。
「もし圧縮比を14にすれば燃費は25〜30%改善するが、出力は50%ダウンする。一方、圧縮比が8なら燃費は望めないが出力は10%アップする。両方組み合わせたVCターボでは、3.5lのV6に比べて燃費を27%向上した上で出力は10%高めた。また、V6エンジンに比べてエンジン重量が軽く、これは走りの面でもメリットとなる」(木賀氏)。
エンジンの味付けについて木賀氏は「強い加速時以外ではなるべく圧縮比が8にならないようなチューニングを行い、少しでも燃費を向上させた。圧縮比もトルクや回転数が低い状態では14を使い、正味燃料消費率は(3.5lのV6に比べて)ダントツに良い」と語った。さらに幅広い領域での過給により、低回転域のトルクでもV6より優れているという。
また、圧縮比の変化をドライバーに見せる装備も取り入れる。新型アルティマでは「可変圧縮比メーター」を採用しており、走行中に現在の圧縮比を目で確認することができる。実際に運転すると「ターボ過給がかかるとドライバーがのけ反るほど加速する」(木賀氏)と環境性能だけでなく高性能ぶりもアピールする。
木賀氏によれば、アルティマはこれまでに累計570万台が販売されており、「米国で一番売れている日産車」だという。インテリジェントモビリティの導入、2つのニューエンジン、日産自動車の米国向けセダン初となる四輪駆動の設定が特徴となる。
エンジンはVCターボに加えて、新開発した2.5l直噴4気筒エンジンも設定した。「従来のQR型エンジンからPR型エンジンへ変更した。ボアとストロークは従来と同じだが、75%の部品を変更し、出力やNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を大幅に向上させた」(木賀氏)。さらに同氏は「新しいCVTもすごく良くなっており、加速とともに回転が上がりリニアリティが高い。疑似的なシフトアップも入れ、気持ちいい走りを実現した」と商品力の高さをアピールした。
量産エンジンとして世界初の実用化となった独自構造のVCRエンジン。木賀氏は「パフォーマンスと燃費をオンデマンドに引き出せる新世代のエンジンだ」とその仕上がりに自信を見せる。さらに「日産としてはVCターボで一気にゲームチェンジしていきたい。今後はいろいろなことを考えている」と木賀氏は語り、可変圧縮比エンジンのさらなる技術展開についても示唆した。
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