デザイン思考などではまず「観察による共感」が起点だとされるケースが多い※)が、歩行トレーニングロボットでも、松本氏と中尾氏が参加して、まず取り組んだのが自分たちでさまざまな形で試してみることである。「運動が不自由な中で使用した場合どうなるのか」を使用者の観察に加えて、自分たちでも重りを背負ったり抱えたりしながら、実際に近い形で体験することで「リアルな体験」をつかむことに取り組んだ。
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さらに現在の形状の必然性を検討するために、実証用モデルの分解も山田氏と協力して行ったという。松本氏は「実際に分解をしてみると、想像以上に複雑な技術が組み合わされて現在の形状になっているというのが理解できた。設計の品質としては非常に高いものがあり、配線や構造面でもさまざまな工夫がこらされていた。デザイン面でのアイデアだけで、簡単に形を変えるというのが難しいということが理解できた」と述べている。
ただ、そうした中で「骨格的により使いやすい形ができるのではないかという点と能動的に使いたくなるような仕掛けができるのではないかと考えた」と松本氏は述べている。
「リアルな体感」をベースとした気付きの中で、1つ大きな変更を行ったのが、ディスプレイとハンドルの位置である。従来モデルでは、ディスプレイはハンドルの上部分にあった。しかし「もたれて歩くような場合は、ディスプレイの表示が近くなりすぎて文字が読めないということがあった。ハンドルを持つ部分も少し分かりにくく、最終的にディスプレイをハンドルよりも下に置き、もたれるような体勢でも見やすいような形とした」と松本氏は語る。
ハンドルの持ち手の形状や太さも、持ちやすさ、操作しやすさ、ディスプレイの見やすさを考えて、さまざまな試行錯誤を繰り返した。高さもワンタッチで変更できる機構を採用。「配線を機構内部に通していることもあり、技術的にも難しかった領域だ」と山田氏は語る。また、ハンドル部分のみをオレンジ色にしたことで「とにかく注意がハンドルに集中するようにした。まずはハンドルをつかめばよいというのが直感的に理解できる」と松本氏は述べている。
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