パナソニックが開発を進める「歩行トレーニングロボット」。健康寿命延伸を目指した製品だが、施設での実証現場でも当初は使ってもらえなかったという。それが現在は順番待ちが生まれるなど、状況が大きく変わった。その背景には「デザインの力」があった。「歩行トレーニングロボット」のデザインへの取り組みを紹介する。
長寿命化が進む一方で、寿命を伸ばすだけでなく、健康に生活できる期間をいかに伸ばすかという「健康寿命」に大きな注目が集まるようになっている。この観点でパナソニックが開発したのが「歩行トレーニングロボット」である。
5年をかけて開発を進めてきた製品だが、介護施設などでさまざまな実証を進める中で、当初はなかなか使われなかったという。それが現在は、施設によっては順番待ちなどが起こる状態も生まれている。こうした変化は何によって起こったのだろうか。同製品の開発への取り組みを追う。
パナソニックが開発を進める「歩行トレーニングロボット」は新規事業開発として、パナソニック イノベーション推進部門 ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター 主幹技師 山田和範氏が始めたプロジェクトだ。プロジェクトメンバーは2人で2014年に開始した。「もともとは1人暮らしの母親と離れて暮らしており、元気でいて欲しいという思いがもともとのきっかけとなった。元気に暮らすためには運動が必要だが、高齢になると転倒する危険も増える。運動量を増やすことを安全に支える何かができないかと考えた」と山田氏はきっかけについて述べている。
歩行トレーニングロボットは、歩行そのものを支援するのではなく、同ロボットを使って運動することを支援するロボットである。同ロボットのハンドル部分を持って歩くことで、歩行の距離やペース、体のどちら側に傾いているかなどのログを記録。運動の記録を取ることができるというものである。同記録は、タブレット端末に表示することも可能で、介護士がリハビリを行う際の記録にも使える点が特徴である。
2015年にはプロトタイプを製作して病院や介護施設での実証を進め、その中で技術的な課題を数多くクリアしてきた。一方で「実証を通じたさまざまな現場の課題も集まってきており、これらに全て応えていくには難しいと感じていた」と山田氏は当時を振り返る。
実際にさまざまな機能を実現し、ブラッシュアップを続けた歩行トレーニングロボットは、施設や利用者によっては高い評価を受けるようになっていた。しかし、最初からやってみようという人は少なく「より幅広い人が継続的、自発的に使ってもらえるようにするにはどうしたらよいのかというのが悩みとしてあった」と山田氏は述べている。
「健康寿命」への注目が高まってきたことから、病院や介護施設には数多くの健康支援器具などが導入されていた。しかし「多くの病院や介護施設を回っている中で目にしたのは、あまり使われなくなり、部屋の隅で放置されてしまった器具だ。あの姿にならないようにどうしたら良いのかが課題だった」と山田氏は語る。
これらの経緯で、行き着いたのが「デザインの力」である。具体的には、ユニバーサルデザインの専門家であるパナソニック デザイン戦略室 先行開発課 課長でユニバーサルデザイン開発担当主観の中尾洋子氏と、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 プロダクトデザイン部 部長の松本宏之氏がプロジェクトに参加し、デザインの力で歩行トレーニングロボットをブラッシュアップすることになったという。
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