デジタルツインがあれば、損失10億円のリコールを避けられた事例で学ぶデジタルツイン(1)(2/2 ページ)

» 2018年11月26日 10時00分 公開
[志田穣MONOist]
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自動車のリコールはなぜ起こるのか

 まずは、製品開発段階において、複合分野の検討が重要なことを示す事例を見てみましょう(図3)。

図3 図3 燃料ポンプ制御モジュールのリコールサンプル

 燃料ポンプ制御モジュールのバックプレートがひどく腐食しています。鋼製のクロスメンバーに亜鉛メッキモジュールを直接取り付けたことによるバイメタル腐食により、結果的にモジュールが故障し、燃料ポンプが機能不全となりました。

 この問題のため8万6000台の車両をリコールし、直接的に発生した費用は860万米ドル(約9億7000万円)でした。これは、電気、材料、信頼性、部品設計部門を横断したデジタルツインのプラットフォームが存在していれば回避可能な問題です。

 さらに、部門間の検討が重要なことを示す事例を見てみましょう(図4)。

図4 図4 左ハンドル自動車のヘッドユニットのリコールサンプル

 図4の何が問題かといいますと、ヘッドユニットにあるラジオの操作部の近くにドライブセレクターが配置されていることです。ドライバーがラジオをオン/オフするために操作しようとしたとき、誤ってドライブセレクターを操作してしまう可能性があります。

 また同様に、安全システムの無効化、ステアリングロックの誤動作を起こす危険性もあります。この不具合には約1万3500台の車両が影響を受け、リコールには135万米ドル(約1億5000万円)を費やしました。このように、リコールの多くは、開発部門や各シミュレーション領域のはざまで起こります。

 起こってしまえば問題は明らかですが、事前に予測することは困難です。このような問題を事前に回避するためには、分野横断型のプロセス上でデジタルツインを活用することが重要になります。つまり、機能モデリングに使用される1Dモデル(以下に詳述)から、下流の各領域/詳細モデルまで連携を持って管理することがカギとなります。

 自動車開発プロセスでは約1万の意思決定が必要であるといわれています。そうした意思決定にはコストがかかります。これらの重要な意思決定を行うタイミングが早ければ早いほど、コストと期間の目標を達成する可能性が高まります。

 自動車などに代表される最新の製品システムでは、非常に多くのテストが必要なため、物理的な試作品だけに依存するとコストがかかります。システムのデジタル表現またはデジタルツインを作成することでこの問題を回避できます。

 これらのデジタル表現は1Dモデルと呼ばれ、ジオメトリ、動作、制御ロジックなどのシステムの特定の側面を表します。また、このような1Dモデルは、コードの生成、信頼性解析の実行など、付加価値を提供しますが、その管理プロセスが不完全だと問題が生じます。

 以下に、モデル運用に関する事例を見てみましょう。

 ある領域のエキスパートがシステム観点で部品のシミュレーションを実行するには、システムの他の部分のモデルが必要です。彼がモデルを持っていれば、自身の手でモデルを組み合わせ、システムのシミュレーションを実行します。しかし実際に、これらのモデルは異なるチームによって開発されています。彼は各チームに対して、彼が必要としているモデルを提供するように依頼する必要があります。

 このアプローチには多くの問題があります。彼が求めるモデルデータは、特定のチームのユーザーのみがアクセス可能な場所に格納されています。そのチームに所属していない人にとって、そのモデルを見つけたり利用したりすることは簡単ではありません。次に、シミュレーション結果が生成された後に何が起こるでしょうか。他の人は、この成果/ナレッジを使うことができますか? チームがさまざまな場所に分散しているとどうなりますか?

 これらのことから、開発段階の観点ではデジタルツインのプラットフォームには以下の要素が必要となります。

  1. モデルの格納方法と使用方法を定義でき、組織全体のプロセスを規定できる
  2. モデル間の依存関係を確立する。これにより、モデルとシステムの他の部分、要件などのプロセス間のリンク情報を作成できる
  3. ユーザーのモデルへのアクセスをコントロールできる
  4. モデルの版数(バージョン)管理。これはコンカレントエンジニアリングに必須
  5. モデルの検索と再利用
  6. モデルの分類

 これにより、設計者は必要なモデルを検索し、モデリングツールでモデルを開き、シミュレーションを実行し、モデルとシミュレーション結果をデジタルツインとして保存できます。別の設計者が同じシミュレーションを実行したいが、幾つかのパラメータを変更する必要がある場合、既存のシミュレーション条件とデジタルツインを再利用できます。



 今回は、製品開発段階におけるデジタルツインの意義について説明いたしました。次回は生産準備工程におけるデジタルツインを見ていきましょう。

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