今井氏は、携帯電話通信網を活用することでクルマが通信できる範囲や相手はもっと広がると説明する。クルマに車載通信機(DCM:データ・コミュニケーション・モジュール)を搭載すると、クルマの利用者とサービスセンターを電話回線で接続できる。これによって、車両がどこにいようともセンターを介して、安心安全、快適なカーライフを支援するさまざまなサービスを提供可能になる。また、車両から各種のデータを吸い上げて蓄積、分析することで、より高度なモビリティ社会を実現できる。
現時点でも、先進事故自動通報システム(AACN)を搭載した車両では、事故時のデータをセンターに飛ばして分析することで乗員の傷害の程度を推定し、必要に応じてドクターヘリの出動要請まで行う。また、アラーム通知機能を搭載した車両では、不審者による車内侵入や窃盗、ドアのこじ開け行為などを検知し、センターを介してオーナーに通知できる。この他、リモートイモビライザー機能では、車両盗難時にエンジンの再起動を遠隔操作で禁止することも可能だ。
車両に搭載された各種のセンサーが収集した膨大なデータを活用すると、新しいサービスの創造や提供以外にも、その可能性は多岐に広がるという。各車両から集めたビッグデータは、「その自動車メーカーの重要な経営資源と考えても差し支えない」(今井氏)というほど重要な役割を持つ。
例えば、車載カメラの情報をセンターに蓄積して他の情報と組み合わせて分析すると、車線ごとの混雑状況や障害物の有無が見えてくる。また、常に最新の情報を提供するためのダイナミックマップの生成も可能になる。車速やABS(アンチブレーキロックシステム)の稼働状況と外気温などを組み合わせると、道路の凍結状況も把握できるようになるという。さらにタイヤの状態やサスペンションなどの稼働状況を分析すれば、道路表面の凹凸まで分かる。これは、改修が必要な道路の場所をピックアップするのに役立つ。
トヨタ自動車は、このように各種の車両データをセンターに送信するのに必要な通信機器であるDCMを日米で販売する車両へ標準搭載することを決め、すでにトヨタの車両は「つながるクルマ」化への第一歩を踏み出したことになる。今井氏は、「2020年までに日米で販売するほぼ全ての乗用車にDCMを搭載したい」とし、各地域の通信事業者との接続を統合管理するグローバル通信プラットフォームをKDDIと構築していることを紹介した。
トヨタ自動車の「つながるクルマ」では、グローバル通信プラットフォームの上に構築したMSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)によってさまざまなサービスを提供する。今井氏は「このMSPFによってあらゆる企業やサービスとオープンな連携が可能になる。アライアンスを組んで、協業しながら新しいモビリティ社会の創造に貢献したい」と語る。
ただ、そのためには膨大なデータを短時間で効率的に処理するデータセンターが必要になる。車両が集めるデータが今後さらに増加するだけでなく、扱うデータの種類が増え、さらに個々のデータサイズも大きくなることが予想される。今井氏は、現時点の試算でも1カ月に数十GBのデータを送受信することが要求されており、それに対応する新しいシステムが必要であることを説明した。
走行する自動車が集めるビッグデータは、サイズが大きいにもかかわらず短時間で分析や処理などを行う必要がある。そのため、データセンター側の負荷は大きくなる。今井氏は「将来は大量のデータをクラウドでさえも集中管理できなくなる」と、データが爆発的な速度で増加することを懸念している。
トヨタ自動車では、このような状況に対応するためモバイルエッジコンピューティングを導入し、データの扱いをエッジサーバとクラウドサーバに分散する手法をとるという。同社は、このデータ処理の課題を解決するために、先ごろインテルやデンソー、エリクソン、NTTなどとともに「Automotive Edge Computing Consortium」という団体を設立した。今井氏は、この動きを「膨大なクルマのデータを活用できるようにしていくためのインフラを、1社単独ではなくて協力して作らないといけないということ」と説明する。
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