2014年から町工場のコミュニティー化に取り組み、協業ならではの高いテクノロジーで医療機器分野に貢献することを目的に設立された、長野県諏訪市の任意団体 SESSAを紹介します。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年8月のサブテーマは『汎用工作機械での3Dデータ活用を考える』です。番外編
今回は長野県諏訪市の任意団体「SESSA中小企業医療機器開発ネットワーク」(SESSA)の活動の実態に迫ってみましょう。まずここがSESSAの事務局でもある、ナノ・グレインズです。
こちらの医療事業本部 本部長の鈴木啓太氏が、現在SESSAの代表幹事を務めています。「代表幹事」という肩書ではありますが、SESSAの参加者はみんな対等な立場ということで、参加者同士で自由に意見を言ったりアドバイスをし合ったり、困ったときはお互いに助け合えるオープンな雰囲気です。
SESSAの製品開発スタイルには大きく分けて「医療機器メーカーからの開発委託」と「自主研究開発」の2つがあります。
前者は通常の商取引の形態で、医療機器メーカーからの要求仕様をベースとして「設計要件定義」を作成し、医療機器メーカーからの承認を得ながら、設計、試作、評価を実施し、量産に向けた開発を進める形です。この場合、開発費は全て医療機器メーカーから支払われます。
後者は売込み(PR)を目的にしたもので、各社が保有している独自技術をベースとして、新たな技術的挑戦を盛り込んだ形での医療機器をSESSAで企画し、設計・試作をします。完成した試作品は、先述の医療機器製造展「COMPAMED」や「MEDTEC Japan」「諏訪圏工業メッセ」などで展示し、試作品そのものの売り込みと並行して、新たに確立した技術の売り込みを実施します。これらの開発費や試作費は、経済産業省や長野県、諏訪市などの補助金を利用しつつ、自己負担分については各社からの持ち出しとなります。またこの2つの他に、部品や部組品としての医療機器メーカーからの受注があります。
ここで皆さんが気になるのは、「医療機器メーカーからの開発委託」や「部品や部組品の医療機器メーカーからの受注」における収益の分配ではありませんか?
実は、SESSAとしての共同受注という形はなく、その仕事を受けた企業が窓口となって受注する形となります。また窓口となる企業はSESSA事務局のあるナノ・グレインズに限ることなく、SESSAのどの企業も受注窓口になることができますし、引き受けた内容によっては別の企業に窓口を譲ることもできます。
例えば、A社が引き受けた案件が自社の専門分野から外れる場合、それを得意とするB社に窓口になってもらうということです。そうすることで、その仕事に適した専門知識を持つ窓口を設けることができるので、顧客との合理的かつ建設的なやりとりが可能になり、信頼も得られるわけです。
そして受注した場合には、窓口の企業は他の企業と連携しつつ仕事を進めます。その結果、「SESSA各社の技術を結集した競争力ある試作品や部品、部組品」として顧客の手元に届くというわけです。このとき窓口の企業と他の企業との連携は通常の受発注により行われるため、各社にとっては通常の取引と何ら変わりません。よって、SESSAには収益の分配という概念がないのです。
そしてSESSAの活動には、戦略とも行動理念とも取れる重要なポイントがあります。それは「黒子に徹すること」です。医療機器も分野によりますが、自社ブランドでの医療機器ビジネスを確立するには、数十億円単位の資金が必要となることがあります。しかしSESSAは中小企業が集まった任意団体ですから、常識で考えても数十億円単位の資金を投資するのはリスクが高すぎます。ですから、製品に自分たちのブランドを付けることによるビジネスは考えておらず、あくまで医療機器メーカーからの受託による医療機器ODMや部品、部組品の供給に徹して、日本はもとより世界の医療機器メーカーとともに歩みながら、世界に向けた医療機器ビジネスを発展させていきたいと考えているということです。
日本の得意とする超精密加工技術を生かしやすい「内視鏡処置具」は医療機器の中でも成長分野であり、これを1つの柱として量産化を目指して活動を推進し、並行して、部組品や部品についてはさまざまな医療機器への応用をはかっていく。これが、SESSAの製品開発のビジョンです。「将来、SESSAが手掛けた医療機器が患者さんや医療従事者の方々の助けになれば、これほどうれしいことはありません」と、鈴木氏は語りました。そして「私達は特別なことをやっているわけではありません。患者さんや医療従事者の方々、そして医療機器メーカーの方々へ継続的に価値を提供できるように、やるべきことを正しくやり続けるという、当たり前のことをしているだけです」とも。
自社の強みと弱みを知り、強みを生かすために誰と組むかを考え、ノウハウをカスタマイズして身の丈に合ったフィールドとスケールでそれを実行する。これは他社と連携したモノづくりの1つの形ですが、連携の目的がどれだけ明確で筋が通ったものであるかは、結果とその後の継続に影響します。SESSAの場合は初めから目的が明確ですから、課題が来たらそれを誰とどうやるかをシンプルに考えて、当たり前に行動するということが、半ば暗黙知として定着している感があります。
今回のサブテーマ『「3D化とIT化は本当に後継者育成の鍵になるのか」を考える』のSCENE:3「町工場コミュニティーの結合による新しいメーカーの形を考えてみる」の中で書いた、『はじめの一歩は「筋が通ったビジョン作り」です』とは、実にこういうことなのです。
SESSAとしては今後も積極的に参加企業を増やすつもりはなく、縁あってSESSAの目的に賛同して、積極的に活動したいと考える企業があれば入会を検討していただく方針です。一方で、「われわれも同じような町工場連携をしよう」と思い立ったら、SESSAの良いところは遠慮なくまねしてもらって構わないそうです。それが日本のものづくりの活性と日本の医療機器産業の拡大に寄与できるとしたら、SESSAとしては本望だと考えているのです。(番外編終わり)
次回は、【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」の新テーマ「メカの3D設計とエレキの2D設計の連携を追求してみる」が始まります。
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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