各国政府の規制強化によりEV(電気自動車)の普及が進むことが予測されている。しかし、規制だけがEVを普及させる要因にはならない。急速に浸透しつつある配車サービス(ライドへイリング)を中核としたモビリティサービスこそが、EV普及を加速させる主役になる可能性が高い。
IHS Markitの調査では、2030年の世界の自動車市場におけるEV(電気自動車)のシェア予測は9.2%となっている。保守的な予測といわれる弊社でさえも、1年前と比較すると、その予測数値は2倍以上の上方修正となっている。その主な理由は、中国、米国、欧州などの主要な自動車産業市場が、EVをはじめとする特定の電動化技術の導入を義務付ける規制を採用もしくは強化しているからだ(図1)。
欧州を中心に都市や国家レベルで2020年代後半から内燃機関車を禁止する動きが加速している。そして中国は、2021年以降にNEV(New Electrical Vehicle)規制値のレベルを強化する方向にある。米国のZEV(Zero Emission Vehicle)規制も、長期的には現在の10州以外に拡大していくことが見込まれている。これらのことを考慮すると、政策や規制主導でEVの世界シェアがさらに拡大する可能性は高い。
一方で、消費者がEVを自発的に選択するかどうかは依然不透明だ。走行距離、バッテリーコスト、充電設備などの技術的ブレークスルーは今後も期待できるが、それでも従来内燃機関車の利便性と比較すると、その用途は限定的である。消費者は自身の経済性を優先するため、財政問題で販売インセンティブが継続できなくなった場合、EVを購入するモチベーションは大きく低下する可能性が高い。
またWell to Wheel(燃料の採掘、発電や燃料精製から車両走行まで)の観点から、実質的なCO2の削減効果は、各国の発電構成に大きく依存する。例えば、石炭火力発電比率の高い中国やインドでは、真に大気中の二酸化炭素を削減するためには、EVの普及策と同時に、再生エネルギーや原子力発電へのシフトが求められる。
これらのように、自動車メーカーを頂点にさまざまなサプライヤーから成る自動車製造産業が構築してきた、自動車の「所有」を前提とした従来のビジネスモデルのもとでは、EVでさえも消費者が抱える経済性、安全性、利便性、環境性の問題解決は困難であろう。そこに登場したのがライドヘイリング(配車サービス)市場である。資本主義経済の限界(大量生産や貧富の差)や技術革新(スマートフォンやIoT(モノのインターネット))が共有経済の出現を促している。ネットワーク上で不特定多数の自動車の提供者と利用者をマッチングさせ、移動のために自動車を「利用」することによって、両者の経済性改善や環境負荷低減が期待できるビジネスモデルだ。
そして、このライドヘイリング市場がEVを積極的に採用していく動きがあり、今後の普及スピードに影響を与えていくと考える。
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