連載第4回では、データを集めるためには「レガシー機器に対しては、古典的な手法でOK」という発想を紹介した。今回はデータの活用について考えてみたい。
製造現場でIoTに取り組みたい理由は、集めたデータを活用したいと考えているからと言ってほぼ間違いないだろう。では、データを活用してどうしたいのか、データ活用の目的は何かとなると、「業務の効率化」「自動化」などといった大きな話か、明確な答えを持っていないケースが多い。目的があいまいでは目指す方向が分からないし、仮に大きな目的があっても、データを見てみないと具体的にどうしたらいいのか分からない、というのも真だろう。「目的」と「データ」は“ニワトリとタマゴ”の関係なのだろうか。
「データ活用」は、IoTを考えるまでもなく、これまでも日常的にやってきていることだろう。少なくともモノづくりに携わっているならば、データを一切見ることなく仕事をしている人はいないはずだ。それにもかかわらず、あえて「データ活用だ!」と旗印を掲げることに、違和感があるのではないだろうか。
では質問を変えて「今までのデータでは、何が足りないのか」「データを足すと、何が得られるのか」と考えてみるとどうだろう。これは第3回で紹介したPDCAの「P」、すなわち「仮説」に相当する。データ活用の第1のポイントは「近い目標を設定する」ということだ。
現場周りのデータに関しては、日々接している現場の人たちからのボトムアップで、小さなPDCAを積み上げていくしかない。つまり現場にとってのやりやすさや納得感が重要で、上からの大きな目的だけではギャップは埋まらないのだ。システム化となると、別部門の人たちが担当することが多いと思うが、大きな設備投資を議論する前に、現場に寄り添って現場を学びながら、現場のPDCAと大目的をつなぐ役割を担う必要がある。
データ活用の大きな目的である「効率化」や「自動化」によって、人員削減を目指すケースも少なくない。確かに人件費は大きなコストであり、効果としても分かりやすいが、本当にそれでいいのだろうか。企業の業務設計や運用を調査・研究している、運用設計ラボ合同会社の波田野氏は、「人が減るということは、その人が作り出していた分の価値が減るということ。組織の空洞化につながるリスクは高い」と警鐘を鳴らしている。
例えばスマートファクトリー化のステップにはいくつかの段階があり、一般に最初のステップは「見える化」、次に「分析」「自動化」、さらに「自律化」などへと進んでいくといわれる。その過程で、あるいは最終的に、人が行っていた作業を機械が自動的に行うことになる可能性は大いにある。しかし結果的に生まれる効果は、「削減」という縮小方向で考えるのではなく、人が別の仕事ができるようになることで「付加価値を高める」という方向で考えるべきではないだろうか。そうでなければ、見える化も自動化も価値を低下させる結果を招いてしまうからだ。人の力で付加価値を高めること。これがデータ活用の2つ目の、そして非常に重要なポイントである。
あなたやあなたのチームの仕事が1つ自動化されるとしたら、どんな付加価値を生むことができるかイメージしてみてほしい。それが、IoTに取り組む意義、モチベーションになる。(終わり)
監修・資料提供:
岡島康憲(おかじま やすのり)/DMM.make AKIBA エヴァンジェリスト
2006年、電気通信大学大学院修了後、NECビッグローブ株式会社(現:ビッグローブ株式会社)にて動画配信サービスの企画運営を担当。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発以外にも、企業向けにハードウェアプロトタイピングやハードウェア商品企画の支援を行う。2014年、ハードウェアスタートアップアクセラレータ「ABBALab」の立ち上げやハードウェアスタートアップ向けのシェアファクトリー「DMM.make AKIBA」の企画運営を担当。2017年、センサーデバイスにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。マーケティングを中心とした業務を担当。
日野 圭(ひの けい)/DMM.make AKIBA テックスタッフ
DMM.make AKIBAのテックスタッフとして、施設運営および電気系・クラウド技術が関わる受託開発を担当。 大阪市立大学大学院修了後、日本電気株式会社にてコンピュータ回路設計とFW設計を経て、ワークステーションのOEM開発PMを担当。要件検討から保守まで、複数の企業とのハードウェアビジネスを経験。 その後、ビッグローブ株式会社にてWebインフラおよびDBを担当。2016年より現職。DMM.make AKIBA 企業向けIoT人材育成研修の講師を務める。
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執筆・構成:杉本恭子(すぎもと きょうこ)/フリーライター
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