モビリティ・チームメイト・コンセプトを実現するには、幾つもの技術が必要となる。奥地氏は、コンセプトを支えるものとして「運転知能化」「つながる知能化」「人とクルマの協調のための知能化」という3つの知能化を紹介した。特に「運転知能化」はクルマ自身が安全に移動するために必要となる。
これに関しては、2016年にアメリカにTRI(Toyota Research Institute)、2018年には日本にもTRI-AD(Toyota Research Institute Advanced Development)を設立し、先行開発から量産モデルまでを一貫して行う態勢が整えられたことが紹介された。
奥地氏は、自動運転車は各地で開発する必要があると説く。「日本で走れたからといって中国で走れるとは限らない。ルール、運転マナーなどが違う」(奥地氏)。さらに同氏は、各地域にマッチした車両を開発するため、それぞれの地域で必要になる海外の人材をどんどん採りたいと述べた。特に、アジアの人材に注目していることを語った。
また、奥地氏はNVIDIAと協力して、シミュレーションを活用した学習環境の開発、ディープラーニングを活用した周辺認識や判断、パスプランニングなどの開発を開始していることも紹介した。日本でも、トヨタ自動車が出資したPreferred Networksと協力して開発を強化しているという。
「つながる知能化」に関しては、見通しの悪い交差点や車両のセンサーでは見えない合流地点では、通信による協調型のシステムが必要になるとし、V2V(Vehicle to Vehicle:車車間通信)やV2I(Vehicle to roadside Infrastructure:路車間通信)などの直接通信だけでなく、他のクルマが見ている規制情報や渋滞情報をビッグデータとして収集し他のクルマと共有する仕組みが必要と説明した。
また「人とクルマの協調のための知能化」については、完全自動運転に近い「運転代行モード」(ショーファーモード)と、クルマを操る楽しさを確保したまま常に周囲を監視してサポートを行う「守護モード」(ガーディアンモード)をあげ、双方を組み合わせながら最適な状況を作ることがモビリティ・チームメイト・コンセプトの目標であることを説明した。
奥地氏は、自動運転の実現に対して2つのアプローチがあることにも言及した。MaaS(Mobility as a Service)環境へ向けたものと、個人所有車(POV、Personally Owned Vehicle)に向けたものだ。
MaaSに向けたアプローチとしては、用途やサービスの提供場所が限定できることから、いきなりレベル4の自動運転からの開発が可能であるとした。これに対して個人所有車では、レベル2から始めて徐々に段階を上げる手法が示された。
奥地氏は、個人所有車でいきなりレベル4を実現するのはセンサーの搭載で難しいとする。デザイン上の理由からセンサー類がなるべく外観に出ないように配置する必要があり、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)やレーダーをグリルなどに取り付けざるを得なくなる。そのため、ドライバーの視点よりも認識度が悪くなるという。「人間のドライバーよりも視界が悪い自動運転システムに運転を任せて良いのかということになってくる」(奥地氏)。
また、安全性を担保するために複数のセンサーを搭載するとデータ量が増え、その処理にも課題があるという。奥地氏は、30TOPS(毎秒30兆回の演算)が可能なNVIDIAの「DRIVE Xavier」でも「正直言って自動運転は厳しい」とし、120TOPS位は必要だと語った。
実は、NVIDIAからは処理能力が320TOPSで、DRIVE Xavierの10倍以上となる「Pegasus」という自動運転向けのモジュールが出ている。しかし奥地氏は「消費電力が非常に高く一般のクルマには使えない」とする。奥地氏は、半導体メーカーの開発スピードから、一般の車両に使える処理チップの出現を2023年頃と予測している。そして、2025年以降であれば、個人所有車でも自動運転が実現できる可能性があるとした。
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