日本医療研究開発機構、東京女子医科大学、信州大学、デンソー、日立製作所が、IoTを活用して手術の精度と安全性を向上する「スマート治療室」について説明。信州大学病院に導入された「スタンダードモデル」は、デンソーの「OPeLiNK」を組み込むことで、医療機器のさまざまな情報を統合運用可能で本格的なIoT活用になる。
日本医療研究開発機構(AMED)、東京女子医科大学、信州大学、デンソー、日立製作所は2018年7月9日、東京都内で会見を開き、IoT(モノのインターネット)を活用して手術の精度と安全性を向上する「スマート治療室」について説明した。AMEDと5大学/11社で共同開発しているスマート治療室は、2016年6月に「ベーシックモデル」を広島大学に導入しているが、今回の会見ではこのほど信州大学病院に導入された「スタンダードモデル」について紹介。事業化を主導する日立製作所は、このスタンダードモデルを中核としてスマート治療室事業を2019年内に立ち上げ、2020年度からの10年間で国内向けに約300億円の売り上げを目指す。
スマート治療室は、IoTを活用して各種医療機器/設備を接続/連携させることで、手術の進行や患者の状況などの情報を瞬時に時系列をそろえて整理統合し、医師やスタッフ間で共有できる総合的な医療システムだ。手術室などの現場では、多種多様な医療機器/設備から発生する膨大な情報を、医師やスタッフが限られた時間内に判断しつつ治療を行っているという課題がある。例えば、「診断」と「治療」の作業が独立しているため、手術中にリアルタイムの診断情報に基づく高度な治療判断が難しいことなどが挙げられる。手術室にあるさまざまな医療機器をIoTによって連携させ、医療スタッフにそれらの情報をリアルタイムかつ統合的に提供することが、スマート治療室の開発目的となる。
AMED 産学連携部 部長の高見牧人氏は「AMEDで開発を進めている医療機器は、2〜3年先ではなく、5〜10年、15年先の医療を見据えた上で世界トップを目指している。中でも、スマート医療室はフラグシップと言っていい取り組みになる。今回、信州大学病院にスタンダードモデルが導入され、臨床研究を始められるのは大変うれしいことだ」と語る。
スタンダードモデルが導入されたのは、信州大学病院が新たに建設した包括先進医療棟だ。7月下旬に予定されている第1例となる脳腫瘍摘出を皮切りに「今後約2年間で脳神経外科関連の40症例への適用が目標」(信州大学 医学部 脳神経外科 教授の本郷一博氏)である。
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授の村垣善浩氏は、スマート治療室のコンセプトについて「これまで手術室は、手術を行う際の滅菌のための部屋だった。スマート治療室では、これを医療機器にする。内視鏡では患者の体内に医療機器が入るが、スマート治療室は患者が医療機器の中に入ることになる」と説明する。
既に広島大学に導入されているスマート治療室のベーシックモデルは、スマート治療室のコンセプト実現に向けて、手術室で用いるさまざまな機器を、モニタリング、患部診断、治療、手術者の補助/支援など用途ごとにパッケージ化したものだ。既に骨腫瘍の治療などにも適用されている。また、スマート治療室の開発を主導する東京女子医科大学では、手術ロボット連携など最も高度なインテグレーションを実現した「ハイパーモデル」のプロトタイプを設置して、先進的な研究開発の基盤としている。
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