筆者はしばしば電子部品を扱うので、RSコンポーネンツとの取引があり、そこで提供していた無償3D CAD「Design Spark Mechanical」と、かつて2ちゃんねるの機械工学板を沸かせた「X-CAD」こと「Alibre Design Xpress」の進化版「Geomagic design」の体験版の2つを試してみました。どちらのソフトも親切に使い方を説明してくれるソースが乏しい中、手探りで操作してみた感想では五十歩百歩。収穫物として、2D CADではなかったスケッチの「拘束」という概念をこの時知ることになります。
2D CADでは、作図エリアに寸法を定めた長方形や円を描いて、補助線を引きながら形状を整えて、最後に寸法を引き出すという流れで済んでいました。それが3D CADでは、3次元形状を成立させるために、スケッチの段階で形状と寸法に拘束を与えなくてはなりません。今になってみれば当然だと思う、こんなささいなことでも、当時の2次元オタクには「は? えーと?」の連続。だからどうしても「3D CADってやっぱり手間がかかるから、2次元サイコー」という印象が強まってしまいました。
その中で、しいて言えば履歴が残せるという理由で「Geomagic design」に軍配が上がり、価格的にも「これなら買えそう」と決めかけたその時、まるでタイミングを見計らったかのように、設計者仲間の方が「よかったら少し使ってみてください。これまでの苦労がウソみたいにふっ飛びますよ」と貸してくださったのが、ミッドレンジ3D CADの「SOLIDWORKS」が入ったPCと入門書籍(通称「赤い本」)でした。この時入門書籍を一緒に貸してくださったことが3D CADへの理解を早めてくれたように思います。
「最近3D CADを2つほど試してみたけど、やっぱりなんだか面倒くさい。でもせっかくだから使ってみようかな」と、入門書を見ながら順に操作してみたところ、意外にも楽。「これなら違和感なく使えるかもしれないぞ」と、そのまま課題になっていた「意匠性の高い構造部品の設計」のために、ひと月近く使わせていただきました。結局これが決定打となり、2014年の暮れにSOLIDWORKSの導入を決めたのでした。
勇気を出して投資したからには早くリターンを得たいのが人情です。導入と同時に市販されているドリル式の入門書も新たに購入して、暇さえあればモデリングの問題を繰り返しこなして、とにかく操作の体得を急ぎました。もちろんトレーニングだけではなく覚えたことは即応用すべく、業務でも積極的に3D CADを使うようになりました。モデリングという作業は、慣れてくると「面白いし超楽しい! これは便利!」です。
だがしかし! 本格的に使いだしてしばらくの間、2D CADを起動する回数は減らなかったのです。それはなぜか……?
設計のおおまかな手順はこうです。
習慣というのは恐ろしいもので、この中の「組立図を描く」という段階では依然として2D CADを使っていたのです。この時の3D CADの出番は、組立図から部品図を作る段階で、それも組立図からバラした部品の2D CADデータを見ながら、それを3Dモデル化するという、なんともおばかなことをやっていたわけです。これではただ単に設計した部品を3次元形状にトレースしたにすぎないというのに、導入からしばらくはそんな肝心なことに気付かず、時間と3D CADをムダづかいしていたのです。3Dデータから図面を作れることも承知していましたが、いかんせん先に2D CADで組立図を作ってしまうので、そこから2次元の部品図を展開する方が当時は、スピード感があったのです。
当社は自社工場を持たないファブレスですから、部品加工は9割くらいが外注委託です。加工屋さんにスムーズかつ正確に情報を伝える手段を考えると、2次元図面は最優位に立ちますから、この期に及んでもなお「何はともあれ2次元図面! 2次元図面こそ正義!」という固着した思考を緩めることが出来なかったのです。
では、その時点で3Dデータの立ち位置は何だったのかと言うと、「誰もが形状を認識できる立体的なデザイン画」といったものでした。つまり、加工図面に添付する補足資料のような位置付けです。当時、3Dデータを支給してもそれを読める環境が整っていない加工屋さんは過半数超えでしたし、その現実もあって3D CADを誤解していたようです。
勇気を出して投資したくせに、何やってんだって話ですよね。ところが、これまたばかみたいにささいなことで、その誤解とムダに気づいたのでした。
SOLIDWORKSのデザインツリーには材料を定義する項目があります。ここで部品をどの材料で作るかを決めるのですが、あとから変更もできます。変更すると部品のプロパティが変わります(当たり前だけど)。ということは……?
ここで目からうろこが落ちました。「3D CADって、絵を描くんじゃなくて、仮想的に部品を作るツールではないか!」って。思えば最初に読んだ入門書は、モデリングの基本テクニックとアセンブリーの基本を教えるものでした。その後、購入した練習帳はモデリングのドリルでしたから、この期間、私は3Dモデルを作る自主トレしかしてこなかったのです。このウッカリを導入から2カ月ほどたったところで気付けてよかったです。
こうして気付きを得て、心新たに3D CADと向き合うことになりましたが、この後もいくつかのハードルが待ち構えていたのです。(後編へ続く)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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