ANAホールディングスが、ロボティクスやVR/AR、ハプティクス技術などを使って遠隔地の体験をリアルタイムで届ける“瞬間移動サービス”「AVATAR(アバター)」事業について説明。「飛行機でお客さまの体を“遠くに届ける”だけでなく、AVATARで意識や思いを“遠くに届ける”新たなサービスを提供していく」(同社社長の片野坂真哉氏)という。
ANAホールディングスは2018年3月29日、羽田空港内で会見を開き、ロボティクスやVR(仮想現実)/AR(拡張現実)、ハプティクス(触覚)技術などを使って遠隔地の体験をリアルタイムで届ける“瞬間移動サービス”「AVATAR(アバター)」事業について説明した。XPRIZE財団との協業による国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」により高性能のAVATAR技術の実現を目指す一方で、今ある技術を用いた早期に提供可能なAVATARサービスの実証実験を大分県との協力によって進める。2019年4月には、AVATARサービスのプラットフォームとなる専用アプリケーション「AVATAR-IN」の提供を開始する計画だ。
AVATAR事業は、同社の2018〜2022年度のグループ中期経営戦略における、政府が推進する「Society 5.0(超スマート社会)」の実現に向けた取り組みの1つだ。そして、AVATAR事業を進める具体的な施策として策定したのが「ANA AVATAR VISION」である。ANAホールディングス 社長の片野坂真哉氏は「これまで、エアライン企業であるANAは、飛行機でお客さまの体を“遠くに届ける”ことが仕事だった。これからは、このAVATARにより、遠隔地の体験をVRなどで見るだけでなく、触るなどして実感できるようにしたい。意識や思いを“遠くに届ける”新たなサービスを提供していく」と語る。
AVATARを実現するための施策であるANA AVATAR VISIONは、大まかに4つに分けられる。1つ目は、高性能AVATARの開発を目指す国際賞金レースであるANA AVATAR XPRIZEだ。2018〜2021年の4カ年で進められ、賞金総額は1000万米ドル。2018年10月末に参加応募を締め切り、2020年4月に1次予選、2021年4月に2次予選、2022年4月に本選を開催する予定だ。「既に150チーム以上が事前登録を行っている」(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクターの深堀昴氏)という。
開発が求められているのは、今後のAVATARサービスに求められる体験を1体で全て提供できるような汎用のAVATARである。深堀氏は「ロボティクス、VR、AR、センサー、通信、ハプティクスなどの技術は指数関数的に進化しているが、これらをAVATARとして1つに融合するにはかなりの時間がかかる。XPRIZEの賞金レースによってこれを加速し、早期の実用化につなげるたい」と説明する。
2つ目は、東京から離れた遠隔地の大分県でAVATARサービスの実証実験を行う「ANA AVATAR大分テストフィールド」である。「海も山も観光地もある」(深堀氏)という大分の地を活用して、教育、医療、観光、農林水産、宇宙開発に関する実証実験を行う。
3つ目はAVATAR技術を持つスタートアップを支援するクラウドファンディングだ。ANAのマイレージを利用できるクラウドファンディングプラットフォーム「WonderFLY」を活用しており、既に3社が登録しているという。
4つ目になるのが、AVATARサービスのプラットフォームとなる専用アプリケーションのAVATAR-INである。遠隔地にあるAVATARやそのAVATARによって提供されるサービスの予約、接続、購入などはこの専用アプリケーションで行う。
深堀氏は「ANAは今まで、飛行機で人を運ぶという物理的な方法で人をつなげてきた。しかし世界人口の6%しかエアラインを使っていないという現状から、AVATARのようなサービスによって、できるだけ多くの人々をつなげられるようにしたいと考えた。単なる企業のCSRではなく、事業としてしっかり収益を上げられるものにしていきたい」と述べている。
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