ミニバン「ビアンテ」の生産が終了した今、「CX-8」はマツダで唯一、3列シートの7人乗りを実現するクルマだ。2017年12月に発売後、1カ月で事前予約を含めて1万2000台の受注を獲得したという反響の大きさの通り、このシートレイアウトには、大いに意味がある。
SUVが人気といわれているが、6〜7人が乗れるシートと何でも放り込めるラゲッジスペースが必要なユーザーは少なくない。その結果、ミニバンが支持を得ている訳だが、それに対してマツダが示した回答が「CX-8」だ。これは「CX-5」を7シーターにしただけなのでは、という見方もできなくもない。けれども、その乗り味はCX-5とは明確に異なる。
ともすればミニバンでは、自分は運転手にでもなったような気分にされることも多い。ところがCX-8は、何よりも運転していることが楽しいのだ。車体の中心に座り、フロントタイヤに十分な荷重がかかり、アクセルとブレーキペダルの操作により前後に荷重移動を行うとともに、ステアリングの操作に対してしっかりとした手応えを感じながら、前後のヨーの立ち上がり、そして旋回Gを感じ取る。
こうした一連の流れるような動きと、それをドライバーに伝える能力によって、CX-8は、大きな箱の右前端に乗るミニバンでは感じにくい、思い通りの走りを味わうことができる。
意のままの運転は、1秒の間にも起こるさまざまな変化をセンサーで検知し、複雑な制御に反映させることで成立している。例えば、4WD(4輪駆動)システムとスタッドレスタイヤを組み合わせさえすれば、雪道でも安心して意のままに運転できると思われるかもしれないが、そう単純なものではない。
「i-ACTIV AWD」と呼ぶトルクスプリット型の4WDシステムは、基本は前輪に駆動トルクの95%、後輪に5%を配分して、必要に応じて前後の駆動トルクを変化させることで、高い走行安定性を実現している。
後輪に5%の駆動力をかけているのは、前輪がスリップした時などにタイムラグなく後輪の駆動力を発揮させるためだ。イニシャルトルクがかかっていないと、カップリングのクラッチのクリアランスやバックラッシュなどにより、トルクの伝達が遅れてしまう。また、駆動トルクが後輪に突然伝わると結果として駆動輪のスリップが起こるため、走行が不安定になる原因にもなる。スリップが起こる瞬間に素早く駆動トルクを別の駆動輪に伝達できればクルマは前に進む力を得て、4輪のグリップを失うことなく走りが安定するのだ。
また、i-ACTIV AWDの制御は、単純に前輪のグリップ状況に応じて後輪の駆動トルクを増やすだけではない。4輪のうちどれかがグリップを失った時は、残りの車輪に駆動トルクを伝達するために空転車輪には軽くブレーキをかける。EBS(電子制御ブレーキシステム)を利用してLSD(リミテッドスリップディファレンシャルギア)と同様の効果を作り出しているのである。
ちなみにマツダのパワートレイン開発本部 ドライブトレイン開発部でリアデフを開発している加藤善英氏によれば、i-ACTIV AWDのトルクスプリット機構は、多板クラッチのカップリング部分のみジェイテクトから供給されているが、リアデフなどその他の部分は全て内製だという。制御だけでなくハードウェアにおいても、マツダのこだわりが込められている。
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