今回のSOLIDWORKSの進化を説明する上で、必要かつ理解しにくい言葉として「3Dエクスペリエンス(3DEXPERIENCE)」があります。そのまま直訳すれば「3Dでの経験」ですが、私は、言葉の定義よりも、体感的に得られるものだと感じています。「これだ!!」と説明する言葉は思い付きません。
しかし、SOLIDWORKSは、確実に3Dエクスペリエンスプラットホームといわれるダッソー・システムズが考えるPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント:Product Lifecycle Management)の仕組みの中に組み込まれており、もはや中核のシステムであることは言うまでもないでしょう。このあたりの技術的な解釈については、いずれソリッドワークス・ジャパンの方々に詳しくお話を聞きたいところです。
それでは何が将来に待っているのかということになりますが……、ここで今後リリースされる製品の5つの新機能の一部について紹介します。
詳細はMONOistの記事にもありますので、ここでは割愛しますが、私からは「4.SOLIDWORKS xDesign」「5.3DEXPERIENCE Marketplace Make」についてお話しします。
SOLIDWORKS xDesignはこれまでも紹介されてきました。タブレット端末でも利用できることが特徴です。特定のPCへのインストールではないことから、使用PCのスペックを気にする必要がないなど利点が考えられます。私自身はまだ製品を評価したことはありません。
これまで私は、外出先や自宅においてもモバイルワークステーションを使用した作業を行ってきています。タブレット端末などで利用できる製品の必要性を強く感じたことはありませんが、どんなマシンでもセキュアな環境で作業できることと、設計情報が共有できることは、今後の業務で役に立つのかもしれません。「テレワークで使いたい」とまでは私は考えられません。まずは欧米から、設計環境が変わっていく可能性はあると思います。
このシステムにはAI(人工知能)が搭載されており、寸法や重量などの要求仕様によって最適な形状を導き出す、形状合成(Form Synthesis)機能などもあります。設計者CAEを推進する私としては、SOLIDWORKS 2017に実装されたトポロジー最適化による評価をしながら、構造計画研究所のSOLIDWORKSアドインでノンパラメトリック構造最適化ツールである「HiramekiWorks」にも関心を持っています。これらの仕組みの違いや、どの程度設計者の意図が反映できるものなのかなど評価をしてみたいと思っています。
新サービスである「3DEXPERIENCE Marketplace Make」は、マーケットプレース(Marketplace)に登録されている企業とその部品から、設計した3Dデータに最適なものを購入できる「Parts Supply」と、Marketplaceに登録されている50社のデジタル製造サービスプロバイダーに、設計した3Dデータによってオンデマンドで製造を依頼する「Make」によって構成されています。
3Dプリンタが注目される1つのきっかけとなり、私自身も読んだクリス・アンダーソン氏の著書である「MAKERS」にも、上記の機能に似た3Dプリンタの出力先の仕組みが書かれていました。しかも、今回発表された仕組みは対象が3Dプリンタだけではありません。これもまた日本国内での取り組みはこれからになり、欧米が先行するようです。
日本国内においては、「現状の受発注の仕組みの中でうまくいくのか」「日本国内で登録企業への参加はどうなるのか」「それを誰が行うのか」という課題や、「まだまだ3D CADデータを受け取って加工できない加工先が多い」という現実があります。
これまでの日本では、このような仕組みは付加価値であるとして、高くコストを見積もってきましたが、そうした背景にマッチするものなのか、また1工程では済まない加工、例えば切削や研磨、表面処理といった工程をどう対応するのかも、懸念事項です。
またSOLIDWORKS WORLDにも出展していたミスミのような、標準部品を提供する企業の取り組みといったものとの比較など、調べていくべき課題はありそうです。
私が以前聞いたところでは、SOLIDWORKSは、日本国内では大規模な企業から小規模な企業までユーザーが広く存在していますが、北米の場合は小規模企業のユーザーが多いとの話を聞いたことがあります。
このような開発設計・製造の環境が導入されれば、“エンジニアリング版 Amazon”のような仕組みというものが求められるのかもしれません。このようなサプライチェーンの情報も、3DEXPERIENCE PLM SERVICEのようなクラウド上のPDMによって共有と管理が行われていくのでしょうね。
5つのうちの2つの機能を取り上げたとしても、そこには「クラウド」というものが存在します。3D CAD周りの話題として取り上げられ始めたころのクラウドは、まさに「雲の上」「雲の中」といったモヤモヤしたものでしたが、今、3D CAD運用・3Dデータ共有・サプライチェーンという中で、クラウドの在り方がはっきり見えてきています。
日本国内でこの仕組みがパワーで勝る大企業先行で動くのか、それとも機動性で勝る中小企業先行で動くのか興味深いところです。国内の販売会社・代理店の皆さんがどう考え、どう展開するのも気になるところです。
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