ソフトウェアの重要性を認識し、ハードウェアありきの事業から脱却しようとしていても、既存事業の運営と同じことを新規事業に要求してはならないと森氏は語った。
既存事業には“目的地”があり、ミスなく最適なルートで効率よく進めることが可能だったが、非連続な新規事業には目的地がなく、進むべき方向も明確には見えていない。そのため、新規事業に失敗しないことを期待するのではなく、挑戦と失敗を繰り返して冒険させるべきだという。アップルにもたくさんの「失敗作」があり、百発百中の成功を求めるのではなく、失敗から学ぶことが重要だと説明した。全員が反対しない限りは挑戦してみるという柔軟な姿勢も必要だと述べた。
「○年後に○○億円の売り上げを確保」と既存事業のような目標を課すことも新規事業が育つ上での制約となってしまう。ハードウェアを販売する既存の事業では、新製品投入で大きな売り上げを確保し、その後はメンテナンスで収益をあげる構造だ。サービスが付加価値を持つ今後の新規事業では、従来より低くても長い期間にわたって収益を確保できる特徴があるが、新製品投入効果が出ないため短期的には売り上げが増えない。
短期的な収益を重視する方針では、「○年後に○○億円の売り上げを確保できる」と明確に目的地を描ける既存事業がリソースを獲得する。売上高の少ない新規事業は社内のリソースを獲得しにくくなってしまう。既存事業が発言力を増すと、食い合いになる新規事業をつぶしてしまいかねない。
新規事業を開発する上でシリコンバレーを活用するには、既存事業と新規事業の運営の違い、ソフトウェアが重視されサービスが付加価値を持つことへの理解、そして、新規事業を長い目で見守る姿勢が欠かせない。単純にシリコンバレーに社員を派遣したり、拠点を構えたりするだけでは新規事業は生まれないことを、森氏は訴えた。
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