設計者CAEは、設計品質を高めるためだけが目的ではない。開発初期段階、すなわち設計段階でCAEでもって問題解消することで後工程における手戻りを減らそうという、フロントローディングの取り組みの1つでもある。よって、設計開発全体を見渡しての導入を検討するのが理想となる。そのような背景からも、CAEはどんどんPLM側に寄せられてきている。
シーメンスは、2012年にLMSを買収。2016年1月に流体解析や最適化ツールを持つCD-adapcoを買収し、さらに同年11月にEDAツールを持つメンター・グラフィックスも買収した。買収してきた技術はPLM部門に集約している。
ダッソーのCAEブランド「SIMULIA」の核はかつて有限要素法解析の「Abaqus」であり、構造解析そのものが中心だった。この十数年間で、構造解析以外の技術の買収に取り組んでポートフォリオを拡大し、2017年には1月にCFDツール「XFlow」の開発元のNext Limit Dynamics、同年10月に格子ボルツマン法のExaと買収し、いよいよ流体解析関連を加えようとしている。SIMULIAはダッソーの「3DEXPERIENCE」プラットフォームの一員であり、統合PLMとしての一部として組まれている。
オートデスクは、2007年に米プラッソテック、2008年に米モールドフロー、2009年に米アルゴア、2011年に米ブルーリッジ・ニューメリックス、2013年に米ファイアホールといった幅広い分野のCAEベンダーを買収。新たに、構造解析、熱流体解析、樹脂流動解析といった製品をポートフォリオに加えてきている。
CAE側は大手ベンダーが中小ベンダーのさまざまな解析技術を買収しながら統合を進め、設計開発側に近寄ってきている。熱心に取り組んでいるのは、やはり統合プラットフォーム化だ。
MSCソフトウェアは2014年に新しいプラットフォーム「MSC Apex」を提供開始。剛性、重量、振動減衰など数学的挙動表現が3Dモデルの部品やサブアセンブリーごとに独立して保持できる「コンピューテショナルパーツ」という独特な概念を組み込んでいる。従来は3D CADで作った、設計がある程度終わった3Dモデルから解析するしかなかったところ、解析ツールの中でかなりの部分の設計が進められるように機能を進化させてきている。現状は実質、解析専任者主体で利用するシステムであるものの、設計者が使う簡単解析ツールのような機能が少しずつ増えており、今後もこの動きが進むと予想される。
アンシスは、もともとは構造解析メインのベンダーだった。過去にはAEAテクノロジーのCFX、Fluentといった流体解析など異種の解析を買収して対象分野を広げていき、統合プラットフォーム「ANSYS WorkBench」を要に連成解析ツールとして進化してきた。2016年には設計者CAE向けとする「ANSYS AIM」を発表し、設計者でも構造、流体、熱のマルチフィジクス解析が取り組めるようにするとアピールしている。さらに2017年9月に発表した「ANSYS Discovery Live」では、さらに解析技術に全然詳しくない設計者でも解析が簡単に、かつリアルタイム実行できる仕組みになっている。
このような動きから見えるのは、解析専任者と設計者の明確な役割分担である。解析専任者が整備した簡単解析ツールを、設計者が電卓感覚で利用するような仕組みだ。前々からあったコンセプトではあるが、今日のコンピュータやネットワークの進化により、それが現実的なものとして見えてきている。技術者教育の問題は依然としてあるものの、先ほども述べたように教育の機会は増えており、今日の技術の進化でカバーできる部分も過去よりも大きくなってきている。2018年以降、要注目の分野として、MONOist編集部でも注意深く周辺情報を追っていきたい。
究極の将来の話をすれば、AIや深層学習と連動して解析技術が高度に進化し、スーパーコンピュータも含めて全てがクラウドに乗っかるとなると、設計者は電卓どころか、インターネットで検索エンジンを使う感覚でCAEを利用できるようになるのかもしれない。
そのような動きが果たして、設計者にとって思考停止の要因になり仕事の品質低下を招くのか、はたまた技術者としての探求心や創造性へつながり品質向上となるのか。どのような分野の自動化においても必ず議論になる問題だが、CAEについても同様である。
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