KYBの売上高の過半数を占める四輪車用のダンパーと電動パワーステアリング(EPS)。クルマの個性や運転の感触を決める重要な部品でもある。KYBの岐阜北工場で、ダンパーやEPSの競争力を支える生産ラインや評価施設、テストコースを訪れた。
KYBはカヤバ工業のブランド、というのが自動車関係を生業としている人の常識であったハズだ。だが、その認識は少々古い。2年前に同社は社名もKYBに変更しているからだ。同社はさまざまな油圧機器を生産しているだけでなく、コンクリートミキサー車の国内シェアは80%を占める。東京スカイツリーや東京駅の耐震装置にも同社のダンパーは使われている。
しかし、やはり主力は乗用車用の部品と言っていい。油圧式パワーステアリングから発展したEPS(電動パワーステアリング)についても相当な生産量を誇り、ダンパーとEPSという四輪車用の部品だけで売り上げの52%を占めるそうだ。
クルマのサスペンション部品を手掛けるサプライヤーは数々あれど、今や独立系のダンパーメーカーは国内ではKYBだけだ。ダンパーなどの油圧系だけでなく、油圧式パワーステアリングから発展したEPSの生産量も相当なもの。KYBの主力である岐阜北工場(岐阜県可児市)で乗用車用のダンパーとEPSを生産しているところを見せてもらった。
この岐阜北工場だけで月産225万本のダンパーを生産している。およそ56万台の乗用車に相当する数だ。だがそれよりも驚いたのはその多品種ぶりだ。実に1万2650種類ものダンパーを作っているそうだ。もちろん基本的な寸法は規格化されていて、ブラケット部分などの形状違いや減衰力特性の違いだけといったものも含んでの品種なのだろうし、全ての品種を均等に生産している訳ではないだろうが、想像より遙かに多い種類を作り分けている。
今回見学させてもらう岐阜北工場が、日本国内では最大規模の生産工場だ。生産しているのはEPSと四輪車用のダンパーで、乗用車用の生産拠点としてもメインと言っていい。トヨタの工場のかんばん方式に合わせて1日に8〜10回、トヨタ自動車の生産工場に納入している。
岐阜北工場は1968年から稼働しているだけに、機械や鉄骨などの工場内部の中には非常に年季の入った雰囲気を漂わせるエリアがあった。まずたどり着いたのは、EPSの組み立てライン。ラックにさまざまな部品を組み付けていく。60秒で1基のEPSが完成し、次々に台車に積まれていく。
最終組み立ては目の前で行っていたが、その前の段階となる各部品のアセンブリーラインはさらに工場内に建てられた建物の内部で行われていた。
CVT用のオイルポンプも同工場で生産されており、手作業で組み立てられていたEPSと違い、こちらはかなり自動化が進んでいた。ロボットがワークを次の工程へと運んでいる。コンタミ防止を優先しているため、ワークの自重やスロープなどを使ったいわゆる“からくり”を使うことは少ないそうだ。と言うのもコンタミの基準値となる異物が0.5mgと非常に小さいのである。
ところが続いて見学したダンパーのバルブアセンブリーエリアはさらに凄かった。こちらは清浄度クラス1000のクリーンルームとなっており、いかに信頼性のために品質が追求されているか分かる。
ストラットのシリンダーはかんばん方式で管理されており、その他のパーツの生産量に合わせて随時生産されているようだ。そのシリンダーに対し、スプリングロアシートやブラケット部分をレーザー溶接するのは自動化された機械だ。
その後にストラットやバルブはアセンブリーラインへ送られる。正立したストラットやダンパーケースの内部にはまずダンパーオイルが満たされる。そこにピストンバルブが組み付けられたインナーロッドを差し込み、ガイドブッシュやシールを組み付けてカシメる。予備加振してチェックすれば完成だ。
ダンパーだけで現在月産225万本というこの岐阜北工場では、ストラットでは9秒で1本、リアサスペンション用のダンパー単体であれば4秒で1本と、続々製品が仕上げられていく。これは従来より稼働している「高速ライン」と呼ぶもので、取材時はリードタイムを短縮して生産コストを軽減する、新しい生産方式「革新ライン」の試験運転中だった。
従来は大きなスペースを占めていたために独立していたストラットの塗装ラインをコンパクトにして隣に置き、中間ストックを削減している。さらに溶接や組み立ては全てロボットが行い、それを3人の作業員が管理するという。
これによって従来は800m2取っていた組み立てラインの専有面積は200m2に縮小できるそうだ。ただし高速ラインでは1本当たり9秒で完成していたストラットは30秒とおよそ3倍の時間がかかる。それでも専有面積は4分の1であるから、4倍にラインを増やせば生産量は3割も向上することになる。この先の労働人口減少を見据えての自動化と考えても、十分に合理的だ。
リアダンパーの革新ラインも同様に、アウターチューブにインナーチューブ、インナーロッドをロボットが組み付けていく。従来の高速ラインでは3、4人で行っていた作業をロボットによる自動化に置き換えられるのだ。
この他、ダンパー1本でも生産可能なラインも用意されている。これは補修部品用として設定されているようで、気に入ったクルマを乗り続けたいと思うオーナーにとってはありがたい設備だろう。純正供給と聞くと、コストばかりを優先し、一定期間が過ぎた純正部品は廃番となってしまうことも珍しくないが、KYBはできる限り対応してくれる姿勢を感じた。
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