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タクシーの需要を精度92%で予測、日々の売り上げ増にも貢献した深層学習車載情報機器

乗客が多そうな場所にタクシーが事前に効率よく向かうには――。NTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部 第2サービス開発担当の石黒慎氏が、タクシーの需要予測の実証実験について発表した。

» 2017年12月18日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
NTTドコモの石黒慎氏

 乗客が多そうな場所にタクシーが事前に効率よく向かうには――。NTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部 第2サービス開発担当の石黒慎氏が、NVIDIAのユーザーイベント「GTC Japan 2017」(2017年12月12〜13日)において、NTTドコモが実施したタクシーの需要予測の実証実験について発表した。

 NTTドコモが持つ携帯電話ネットワークを利用した人口データと、東京無線協同組合のタクシー運行データを掛け合わせて、タクシーの利用需要をリアルタイムに予測する取り組みだ。実証実験は東京23区と武蔵野市、三鷹市を対象に2016年6月から開始し、富士通やデンソーテン(旧富士通テン)も協力。実証実験を通じて、参加ドライバー1人あたり、平均して1日1409円の売り上げ増を達成した。

1人あたり1日平均1409円の売り上げアップを達成した 出典:NTTドコモ

 こうした取り組みの背景には、タクシードライバーが需要のあるエリアに効率的に運転できていない現状がある。新人ドライバーであれば利用客の多いエリアに関する知識や情報がなく、ベテランは土地勘のある得意なエリアで営業する傾向があった。

 タクシーの需要はそのエリアに人が多ければ多いほどタクシーに乗る人は多くなり、人が少ない地域ではタクシーの乗客も少ない。NTTドコモの事前検証では、人口と乗車数がタイムラグなしに連動している地点だけでなく、人口が増えた5時間後にタクシーに乗る人が増える場所もあった。また、普段よりも人が多く集まっている時間や場所では乗客獲得率が高い傾向が明らかになり、人口データを基に需要を発見できることが分かった。

 こうした要素を踏まえて、タクシードライバーの業務効率化に向け、30分先の需要予測とドライバー向けの情報提供に取り組んだ。

500m四方のエリアの30分先の需要を予測する 出典:NTTドコモ

 NTTドコモは、携帯電話ネットワークの仕組みを利用した「リアルタイム人口データ」を持つ。基地局のエリア内にある携帯電話の数を周期的に把握しており、500m四方の人口を10分ごとに推定している。データは30分前までさかのぼることが可能で、カバー範囲は日本全国だ。リアルタイム人口データから、個人を識別できる情報や、少人数しかいない地域は除外されている。

 実証実験に利用するタクシーの運行データは、デンソーテンのタクシー配車システムと富士通の位置情報サービス基盤で収集。この他にも、気象情報や周辺施設に関するデータもタクシー需要予測モデルに活用した。

 需要の予測にはディープラーニング(深層学習)を用いた。タクシーの乗車数やリアルタイム人口データ、天候など時系列の特徴量に対し、過去6時間の30分ごとの情報を時間軸を設け、曜日や時間帯の過去の平均乗車数といった統計化された特徴量も併せて学習させた。地域ごとに異なる予測モデルを作成するのではなく、さまざまな地点の大量のデータを入力し汎化性能の高い単一の予測モデルを作成した。

ディープラーニングを用いた学習の概要 出典:NTTドコモ

 学習させたのは2016年4月1日〜同年8月31日の期間のデータで、東京23区と武蔵野市、三鷹市を対象にした。タクシー4425台分の位置情報や乗降数の他、解像度250mの気象データも10分ごとに取得して利用した。実証実験では、500m四方に区切った各エリアの30分先のタクシー乗車数を、10分おきに予測して精度を評価。評価は2016年9月1〜14日に実施した。

 実証実験の結果、タクシーのみのデータに比べて、人口データや雨量といった指標を加えることで精度が向上することが分かった。また、乗車人数が50を超える需要の多い場所、時間帯では精度が大幅に向上した。予測正解精度は92.9%で、駅前や繁華街など高需要エリアと住宅街など低需要エリアで特に高い精度を実現できたとしている。

実際の需要とディープラーニングによる予測の比較 出典:NTTドコモ

 実証実験の結果はエリアごとに差が出た。浜松町駅周辺は的確に需要を予測できたが、蒲田駅周辺では極端なピークに対応しきれない場合があった。オフィスが集まり、土日の人出が少なくなる虎ノ門や日比谷公園の周辺では、曜日の違いまでカバーして需要予測ができた。また、東京駅から有楽町にかけてのエリアでは、全体的な需要傾向はカバーできているものの、ピーク時には実態よりも下振れした予測を出す傾向があった。

 今後はイベントの情報などデータを追加していく他、GPUのさらなる活用にも取り組んでいく。

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