スマート工場最大の障害とは、後付けできるノンプログラミング組み込みAIで解決SCF2017

ルネサス エレクトロニクスは、「SCF2017/計測展2017 TOKYO」において、組み込みAI技術「e-AI」を用いて、設備や機械に後付けするだけでAIによる異常検知や予防保全が可能になる「AIユニットソリューション」を披露した。

» 2017年12月01日 06時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 ルネサス エレクトロニクスは、「SCF2017/計測展2017 TOKYO」(2017年11月29日〜12月1日、東京ビッグサイト)において、組み込みAI(人工知能)技術「e-AI」を用いて、設備や機械に後付けするだけでAIによる異常検知や予防保全が可能になる「AIユニットソリューション」を披露した。

 e-AIは、マイコンやプロセッサにもディープラーニングなどによって得たAIのアルゴリズムを組み込むことができる技術だ(関連記事:ルネサスの「e-AI」が切り開く組み込みAIの未来、電池レス動作も可能に)。今回展示したAIユニットソリューションは、最大動作周波数が600MHzの「RZ/Tシリーズ」を中核とするレファレンスデザインに加えて、ディープラーニングに必要な各種データの前処理や後処理を行い、得られたアルゴリズムを実装するためのソフトウェアをスマートファクトリー向けにパッケージ化したものだ。このため、プログラミングすることなく、設備や機械をインテリジェント化できるという。

「AIユニットソリューション」の概要 「AIユニットソリューション」の概要(クリックで拡大) 出典:ルネサス エレクトロニクス

 同社インダストリアル事業本部 IAソリューション事業部長の傳田明氏は「スマートファクトリーの実現に向けた最大のハードルは、収集したデータを使えるようにするプロセスだ。ここを超えられず挫折することが極めて多い。次に難しいのが、ディープラーニングなどで得たアルゴリズムを実装するプロセスになる。ディープラーニングによってアルゴリズムを得るプロセスのハードルは下がってきている」と語る。コスト割合でみれば、収集したデータを使えるようにするプロセスが実に7割を占めるという。

AIの導入に必要なコスト AIの導入に必要なコスト。収集したデータを使えるようにするプロセスが実に7割を占める(クリックで拡大) 出典:ルネサス エレクトロニクス

 これらのハードルを下げるべく発表したのがAIユニットソリューションだ。同ソリューションは、ルネサスの那珂工場における実証実験の成果が反映されている。「主にエッチングや成膜、不純物注入といったプロセスを中心にAIユニットを適用し、電流波形や振動などの異常を検知するなどして、歩留まり向上や装置のダウンタイム削減に向けた実証実験を行った。AIユニットの効果を含めて、約6カ月間で約5億円の効果が得られた」(傳田氏)という。

 展示では、2台のウエハー搬送ロボットに加速度センサーを組み込んで動作時の振動をモニタリングし、AIユニットに組み込んだアルゴリズムによって異常を検知するデモを見せた。振動データの他、AIのアルゴリズムに基づく判定値も表示。判定値は、1以下であれば正常だが、1を超えると異常と判断する。AIユニットは128MBのフラッシュメモリを搭載しているが、AIのアルゴリズムのデータ容量はウエハー搬送ロボットそれぞれに6MBずつだという。

「AIユニットソリューション」のデモ振動をモニタリングしている 「AIユニットソリューション」のデモ。上下に並べて設置された2台のウエハー搬送ロボットの振動をモニタリングしている。ロボットの左奥にあるのがAIユニットだ(左)。1を基準値とする判定値から異常を検知する(右)。青色のグラフで示したロボットAの判定値グラフのうち、1を大きく超えたタイミングがあるが、これは外からロボットをたたいたためだ(クリックで拡大)

 なお、このAIユニットを基に、アドバンテックと明電舎が独自のAIユニットを発売することも決まっている。

アドバンテック(左)と明電舎(右)のAIユニット アドバンテック(左)と明電舎(右)のAIユニット。明電舎の方がサイズが大きいが、これは表示部やパラレルポートなどがあるためだという(クリックで拡大)

 傳田氏は、e-AIの今後の展開について、「現時点のAIユニットでは、アルゴリズムを実行するだけで、アルゴリズムを作り出す学習は行えない。学習は別途、PCやサーバ、クラウドなどを用いる必要がある。ただし当社が開発中の、動的に再構成が可能なプロセッサ技術『Dynamically Reconfigurable Processor(DRP)』を用いたチップであれば、AIユニットで学習も行えるようになる。DRPのテストチップが2017年12月に出る予定なので、今後開発や検証が順調に進めば2019年にも市場投入できるだろう」と述べている。

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