ダイハツ「ミライース」、37.0km/lを超えられる新型エンジンをなぜ諦めた?ミライース 開発者インタビュー(4/4 ページ)

» 2017年08月31日 06時00分 公開
[高根英幸MONOist]
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高根氏 安全装備にお金をかける分だけ、燃費は軽量化とパワートレーン制御の工夫で頑張ろう、ということになったのか。

南出氏 潔くカタログ燃費はこれまでと同じ。しかし、積極的にアピールはしていませんが実燃費は向上していますので、ユーザーさんにとっては賢い選択にしていただけるのではないかと思って開発しました。

高根氏 実際、どれくらい実燃費は向上したのだろうか。

南出氏 お客さまからも質問されるんですが、数字はメーカーの立場からはいいにくいんです。同じ季節で同じ時間帯で、同じ乗車人数で、同じ走り方をしてもらえば、絶対に良くなっていることが分かります。実際に社内テストで先代モデルと比較していますが、エアコンかけた状態で比較すると10%くらいは向上しています。

 ただ数字で表示してしまうと、やはりお客さまの乗り方に影響されるので「変わらないじゃないか」とおっしゃる方も出てくるでしょう。気持ち良くなった走りでアクセルをつい踏み込んでしまって、むしろ燃費が悪くなっているじゃないかといわれるかも知れませんので、難しいなぁと思っています。ただ車体を軽くしたことで、無駄なアクセルの踏み込みは無くなっていますから、燃費が良くなっているのは実感しますよ。私も先代と同じルートを走って、そう感じました。

燃費不正問題を受けて団結、われわれの考え方は正しかった

高根氏 カタログ燃費推進派の反対はどうやって抑えたのか。

南出氏 いやぁ、大変でした。社内は役員までかんかんがくがくでしたから。ただ、タイミングが良かったのは、例の燃費偽装の騒ぎがあって「やっぱりボクたちは正しかった。カタログ燃費ばかり追いかけていたら、こんなことになってしまうんだな」という考えが社内に広まりました。方向性として良かったよねという考えに落ち着きました。実は、その時にはもう新型ミライースは出来上がっていたので、その時点でやっぱりカタログ燃費だといわれてもどうしようもできませんけど(笑)。とにかく難しい開発でした。

高根氏 70〜80代になっても、移動の手段としてクルマを手放せないから、免許を返納できないユーザーも少なくない。そういう意味では自動ブレーキや誤発進抑制機能は、絶対に必要な装備だといえるだろう。

南出氏 先日もどこかの新聞で書かれていましたが、数年後には75歳以上の後期高齢者が何万人も増えるという状況です。皆さんクルマを取り上げられてしまうのは、生きがいや自由を失うことに近いと思うんです。やはり、皆さんに生き生きと生活していただきたいですから、そういった方のためのクルマでもあるという面は外してはいけないと思っています。

速度表示の数字が大きくはっきり見える(クリックして拡大)

高根氏 スピードメーターの数字が大きいのも高齢者対策なのか。

南出氏 私も老眼が進んできて、近くが見えにくくなっているので、とにかくクッキリハッキリ見えるものにしてくれとデザイナーにいいました。ダイハツのクルマの中では一番文字が大きいですよ(笑)。

 ショッピングモールなどで安全安心キャンペーンというのをやっています。「自動ブレーキが作動しているのはもう事故ですよ」と伝えるなど、おせっかいにならない程度で二言三言いっているんです。大事なのは警告を早く出してあげることだと思っています。自動ブレーキが作動する前の状態で済むようにもっと力を注ぐべきなんじゃないかと思います。「勝手にブレーキかけてくれる良いクルマでしょ」じゃ、お客さんの運転技術が低下していくばかりですから。

高根氏 自動運転が何もかも解決してくれるという考えもある。しかし、ダイハツ、特に南出氏はそう考えていないということか。

南出氏 自動運転は導入しなくては(ダイハツのクルマで)高速道路を走れなくなるでしょうから当社でも開発していますが、クルマを自動で走らせて、何が楽しいのという思いがあります。物流のトラックは効率のために導入が必至でしょうが、パッセンジャーカーではどこを目標にしてやっていけばいいんだろうというのが、私の中ではまだ考えがまとまっていない状態です。


 運転支援機能や快適装備が充実して登録車のコンパクトカーと大差ない価格の軽自動車も増えている中、入口価格を84万円に抑えた新型ミライース。開発者自らユーザーの声を聞きに行き、多くの制約を乗り越えて求められているクルマを形にした。

 新型ミライースで苦労した“コストのやりくり”は、トヨタグループの一員として担う小型車の開発にも生きていくだろう。

筆者プロフィール

高根 英幸(たかね ひでゆき)

1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。輸入車専門誌の編集部を経て、現在はフリーランス。実際のメカいじりやレース参戦などによる経験からクルマや運転テクニックを語れる理系自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。



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