東北大学は、安定な2価イオンが原子集団の中に存在すると周囲の原子をイオン化して低エネルギー電子を放出させるという現象について、理論的に予測された新機構を実証した。
東北大学は2017年1月31日、安定な2価イオンが原子集団の中に存在すると周囲の原子をイオン化して低エネルギー電子を放出させるという現象について、理論的に予測された新機構を実証したと発表した。同大学多元物質科学研究所の上田潔教授、福澤宏宣助教授のグループと、京都大学、産業技術総合研究所、理化学研究所、独ハイデルベルグ大学などの合同研究チームによるもので、成果は同月30日、英科学誌「Nature Communications」電子版に掲載された。
同研究では、この新機構を実証するため、ネオン原子とクリプトン原子の混合クラスタをモデル系として実験を行った。実験には、大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県)から得られる波長のそろった強度の強X線を用いた。
まず、SPring-8のビームラインBL17SUにおいて、ネオン原子が吸収しやすい領域にX線の波長を合わせ、ネオン原子とクリプトン原子の混合クラスタに照射し、クラスタ中に安定な2価ネオンイオンを生成した。
このイオンは、周囲にクリプトン原子が複数存在する場合、クリプトン原子から電子を1個奪って1価クリプトンイオンとし、自らは1価ネオンイオンとなり、別のクリプトン原子から電子を突き飛ばして1価クリプトンイオンをさらに1個生成すると予測されている。また、この2つ目のクリプトン原子から放出される電子のエネルギーは、非常に低くなると予測され、その結果、1価ネオンイオンが1個、1価クリプトンイオンが2個、低エネルギー電子が1個生成される。
今回、これら3個のイオンと電子の運動量を同時に計測した。その結果、得られた電子の運動エネルギー分布の中に、ネオン原子やクリプトン原子それぞれ単独の場合には観測されない低エネルギーの電子が検出された。これにより、理論的に予測された新機構を実証できた。
低エネルギーの電子はDNAの鎖を切断し、細胞の死滅につながる。そのため、X線照射による低エネルギー電子の生成過程を解明していくことは放射線損傷を制御し、放射線治療を効果的かつ正確に行うために重要な役割を果たすという。
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