産業技術総合研究所は、感覚運動の学習において動作アシスト機器の効果を実証した。ラット用実験装置で学習に介入し、その影響を調べたところ、「正しい動きを手取り足取り動かして教えることが学習に有効」という、従来の仮説を覆す結果が出た。
産業技術総合研究所は2017年1月13日、感覚運動の学習において、動作アシスト機器の効果を実証したと発表した。同研究所人間情報研究部門身体適応支援工学研究グループの井野秀一研究グループ長、筑波大学システム情報系の長谷川泰久准教授(現・名古屋大学教授)、大阪大学大学院生命機能研究科の田村弘准教授らによるもので、成果は同月12日、国際専門誌「Learning&Behavior」電子版に掲載された。
同研究では、ラット用学習実験装置を用いて、動作アシスト機器の効果を検証するための実験モデルを構築した。装置は、前面の左右2本のレバーを同時に押し下げると左右どちらかの前肢にランダムに空気を吹きかける(空圧刺激)仕組みで、刺激を受けた前肢を持ち上げてレバーから離せば報酬が得られる。装置にはアクチュエーターを組み込んでおり、前肢を強制的に持ち上げて応答動作を引き起こし、学習に介入できる。この装置を動作アシスト機器とし、学習への効果を調べた。
まず、空圧刺激から一定時間後の介入を混ぜて健常ラットに学習させた。介入のタイミングや、介入する側の前肢(正答側と誤答側)を変えて、正答となる側の前肢を学習するまでの日数などを調べた。その結果、介入自体や、介入のタイミングなどによってエラー率の低下や反応時間の変化に差が生じたことから、強制的に応答動作を引き起こすことで学習に影響を及ぼすことが実証された。
また、正答よりも誤答となる動作を引き起こす介入の方が、学習に要する期間が短いと分かった。さらに、ラットが自発的に応答しようとするタイミングで誤答動作の介入をした場合、学習の促進効果が高く、エラー率は低くなり、反応時間も短くなった。これらの結果は、「学習は、正しい動きを手取り足取り動かして教えることが有効ではないか」という従来の仮説と異なるものだ。
今回、誤答動作の介入の方が学習を促進したのは、誤答側の介入の場合、介入なしに正答する場合と同様のレバー押力の感覚を生じ、反射経路を通じた脊髄運動神経の変化が、介入なしに正答する際の随意運動により生じる神経活動と似ているためだと考えられる。つまり、望ましい体の動きそのものではなく、それを生じるような神経系の活動を、外力によって引き起こすことが有効であると示唆される。
今後、このモデルを脳梗塞片まひラットでも検証し、学習促進効果のメカニズムを解明する。その神経科学的知見を生かして、高度なリハビリテーション技術へ応用することを目指す。
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