九州大学は、アトピー性皮膚炎でかゆみを引き起こす物質「IL-31」の産生に、タンパク質「EPAS1」が重要な役割を持つことを発見した。今回見いだされたEPAS1〜IL-31経路が、アトピー性皮膚炎のかゆみを絶つ新たな創薬に役立つことが期待される。
九州大学は2017年1月10日、アトピー性皮膚炎でかゆみを引き起こす物質「IL-31」の産生に、タンパク質「EPAS1」が重要な役割を持つことを発見したと発表した。また、EPAS1の作用機序も解明した。同研究は、同大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授らの研究グループによるもので、成果は同月9日、英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
研究グループは、DOCK8という分子を欠損した患者が重篤なアトピー性皮膚炎を発症することに着目。このタンパク質の機能を解析したところ、遺伝子操作でDOCK8が発現できないようにしたマウスでは、重いアトピー様皮膚炎を自然発症することを発見した。同マウスのヘルパーT細胞を抗原で刺激すると、IL-31の産生が明らかに亢進したことから、DOCK8がIL-31の産生を抑制する機能を持つことが分かった。
次に、IL-31の産生制御機構を明らかにするため、野生型マウスとDOCK8欠損マウスでヘルパーT細胞の遺伝子発現を調べた。その結果、両者の間でEPAS1という遺伝子産物の発現に違いが見られた。DOCK8欠損マウスでEPAS1が発現しないよう抑制するとIL-31の産生が激減した。さらに、ヘルパーT細胞においてEPAS1が発現できないように遺伝子操作したマウスと、DOCK8欠損AND Tgマウスを交配すると、アトピー様皮膚炎は発症しなかった。
このメカニズムを解析したところ、EPAS1はSP1という分子と協調して、IL-31の遺伝子発現を誘導することが分かった。一方、DOCK8はMST1という分子を介して、EPAS1が核へ移行するのを抑制しており、DOCK8が欠損しているとEPAS1が核に移行し、IL-31の産生誘導が起こることが分かった。
さらに、ヒトヘルパーT細胞においても、EPAS1の重要性を検討した。アトピー性皮膚炎患者の血清は健常者に比べてIL-31の濃度が高値で、ヘルパーT細胞を刺激すると大量のIL-31が産生されるが、EPAS1の発現を抑えるとIL-31の産生は減少した。
アトピー性皮膚炎は現在、かゆみを直接コントロールできる薬がない。今回発見したEPAS1〜IL-31経路は、アトピー性皮膚炎のかゆみを絶つための新たな創薬に役立つことが期待される。
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