IoTと同じ内容のバズワードとしては、これまで「ユビキタス」など多数存在したが、IoTという呼称が残ったのは「『モノをインターネットにつなぐ』というより『インターネットのようにモノをつなぐ』ということを明確にしたためといわれている」(坂村氏)。IoTは「誰でも、何にでも」使えるオープンネットワークである。これまでもホームネットワークなどで取り組みがあったが、同じメーカーの製品でなければつながらないというクローズ性があった。
「これを完全にオープンにしなければ、社会は大きく変わらない。鍵はオープン性にある」と坂村氏は指摘する。ドイツの産業政策ビジョンであるインダストリー4.0も、部品から組み立て、販売まで全ての現場が連結し、透明化されている。その結果、意思決定が最適化され、高効率で柔軟な多品種少量生産が可能になるという。
これをトヨタ自動車のカンバン方式と比べてみると、技術的にはほとんど変わらないが、やはり違うのがオープン性の度合いだ。インダストリー4.0は、全ドイツ、さらに全世界の製造業をつなぎ、系列に閉ざされないオープンなカンバン方式を目指している。「全ドイツの企業が誰でも参入でき、部品から組み立て、販売までの現場が全て連結し、透明化される。それが全てジャストインタイムで行われた場合、例えば部品を組み立て工場に持っていけば、すぐに組み立てが始まる。そうすれば倉庫も必要なくなる。こうしたことを全ドイツの製造業が取り組み、エネルギーの無駄をなくそうとしている」(坂村氏)。
また、米国企業中心の「インダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)」も設立された。同コンソーシアムは産業機器に多くのセンサーを組み込んでネットワーク化し、データを集め故障診断から予防保全まで行うための技術標準開発を目指している。これらのコンセプト自体はGeneral Electric(GE)のクローズな構想から始まったが、その一般化を目指しGE、AT&T、CISCO、IBM、Intel(インテル)などが設立メンバーとなっている。
こうしたオープン性が特徴のIoTを日本が生かせるかは技術問題だけでなく社会制度の問題でもあるようだ。
坂村氏は「つながってしまったものに対してはセキュリティとともに、ガバナンス管理が重要となる」と指摘している。また、IoTの制御部分が大量で、しかも高負荷なコンピュータ(エッジノード)がつながっている環境では、いくら全体最適になっても大きな負荷となる。エッジノードはより軽くし、高度な機能はクラウドに送って処理するような形にする方が望ましいようだ。こうした中で、坂村氏はアグリゲート(総体)モデルを提案している。組み込み機器のAPIをオープン化した上でクラウドに直結し、そのクラウドが他のクラウドと連携し動作する。エッジノードとクラウド間は仮想的な常時直結状態と考えられ、ローカルには複雑なガバナンス管理機能は必要ない。「アグリゲートモデルであれば、高度なガバナンス管理はクラウドで実現すべき」(坂村氏)と結論づけている。
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