環境とエネルギーの総合展示会「エコプロ2016」の特別講演に東京大学大学院教授の坂村健氏が登壇。「サステナブル社会を実現するIoT」をテーマに、同氏が研究を進めているTRONとIoTの関係などを紹介した。
環境とエネルギーの総合展示会「エコプロ2016」(2016年12月8〜10日、東京ビッグサイト)の特別講演に東京大学大学院教授の坂村健氏が登壇。「サステナブル社会を実現するIoT」をテーマに、同氏が研究を進めているTRONとIoT(モノのインターネット)の関係などを紹介した。
今回の講演で坂村氏はサステナブル(Sustainable:持続可能な)社会を実現するためのIoTの役割などを解説した。坂村氏によれば「サステナブル社会を実現するにはエネルギーの消費を減らす必要がある。そのためにはまず個々の機器の消費電力を減らした上で、その次に社会の全体最適による効率化が考えられる。IoTはどちらかというと社会の全体最適を狙った情報通信関連の技術だ」という。環境中の多数の機器を連携させて現実の状態に合わせて、サービスレベルを上げながら、全体で効率的な運用を行うためのモデルとしてIoTは位置付けられ、今、世界的に注目を浴びている。
IoTが現実的なものになってきたのは、コンピュータネットワークの整備が進んでインフラとして使えるレベルになってきたことと、バーチャルな世界と現実の世界の関係を作れるようになったことがある。IoTは、現実から情報を得るセンサーネットワークと、情報から現実を変えるネットワーク接続された組み込み機器が相互に作用することによって、社会全体の効率化を図り人々の生活を支える広い技術の集大成といえる。
ただしセンサーネットワークからは大量のデータが集まってくる。いわゆるビッグデータやオープンデータを分析することが重要なポイントとなるが、人間の力でだけ分析するには限界がある。そこで、人工知能(AI)などにも関心がもたれている。ビッグデータ、オープンデータおよびAIはIoTと強い関係性にある。
IoTとAIによる省エネ効果についてその一例をあげると、Google(グーグル)は巨大データセンターの空調制御に、子会社であるDeepMind(ディープマインド)のAIを適用し、省エネ化に取り組んだ。数千個のセンサーからのビッグデータをもとに、空調やファン、窓の開閉などの約120の制御要素を最適化したところ、たった数カ月の学習でデータセンターの空調関連のエネルギー消費を約40%削減するなどの結果が出ているという。
坂村氏は、約30年前から「TRON」という組み込みシステムの研究を進めている。TRONのOSファミリーを使った組み込み機器、製品は幅広く、産業用機器から家電製品、通信機器、さらには小惑星探査機「はやぶさ」や小型ソーラーセイル実証機「イカロス」などの宇宙衛星もある。
このようにTRONは衛星など省エネが必要なところに使われており、その点でIoTのコンセプトと関係するところがあるようだ。坂村氏によると年間100億個程度生産されているマイコンの95%が組み込み向けに使われており、Windowsなど情報処理系に使われているのは5%程度にすぎない。日本では約60%、全世界でも約30%がTRON仕様のOSを搭載するなど、TRONは世界で最も使われている組み込み機器向けリアルタイムOSだという。
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