京都大学は、口腔内細胞のDNAを用いて、従来の方法では親子・兄弟までしか判定できなかった2人の間の血縁関係を、またいとこまで他人と区別できる高精度なDNA鑑定法を開発した。大災害などにおける身元確認の精度向上に貢献するものだ。
京都大学は2016年8月10日、口腔内細胞のDNAを用いて、これまでの方法では親子・兄弟までしか判定できなかった2人の間の血縁関係を、またいとこ(いとこの子ども同士)まで他人と区別できるDNA鑑定法を開発したと発表した。同大学医学研究科の玉木敬二教授らの研究グループによるもので、成果は同年7月29日、米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
血縁が近い人同士(親と子、兄弟など)は、血縁の遠い人や他人と比べて染色体の共有が多いため、血縁鑑定では、染色体の共有がどれほどあるかを検出し、血縁関係を判定する。しかし、現在通常行われているDNA鑑定法(DNAの15カ所を検査)では、親子、兄弟までしか完全には判断することができなかった。
同研究グループは、独自に考案した「染色体共有指標(Index of chromosome sharing:ICS)」という指標を用いることで、遠い血縁でのわずかな染色体の共有を検出することに成功した。これは、DNAマイクロアレイを用いてDNAの配列上のわずかな違い(一塩基多型:SNPs)を約17万カ所検査した結果を有効に利用するためのものだ。
まず、模擬の日本人家系のSNPs型をコンピュータ上で多数作成し、ICSが血縁関係ごとにどの程度になるかを推定した。そして、分布の高さ(確率密度)を利用する新しい計算方法を用いて、検査した2人が特定の血縁関係にあるかどうかを確率的に評価する。検査する2人の間の血縁関係が予想できる場合は、血縁関係がある場合とない場合の確率(尤度:ゆうど)を比較する尤度比を計算する。尤度比が高いほどその2人は血縁者らしく、低いほど血縁関係がないということを意味する。
この方法を使うと、兄弟のような近い関係はもちろん、いとこ同士や、ある人とそのいとこの子どもといった遠い血縁関係の場合でも、99.9%以上の確率で判断することができた。さらに、またいとこでも約94%の確率で他人と鑑別できることが分かった。
その上で、さまざまな血縁関係にある人たちについて、実際のDNA検査で正しく血縁関係を判定できるか検証したところ、2人の関係が兄弟・いとこ・またいとこなど、全ての血縁関係に関して、正しく判定することができた。さらに、血縁関係が不明で尤度比を用いることが困難な場合でも、確率密度とベイズの定理を応用した事後確率を算出することで、いとこまでは80%以上の高い精度で判断できた。
2011年の東日本大震災後、いまだに70人以上の遺体について身元確認の捜査が続けられていると報告されている。災害などで身の回り品が全て流されてしまったような場合には、当人のDNA型の一致による身元確認ができず、血縁鑑定に頼ることになる。今回の成果により、大規模災害などにおける身元確認の精度が大幅に向上することが期待されるという。
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