では、その仕組みに戻りましょう。モデルと直前の t-1 における状態の最良推定値から、現在の時間 t における状態を計算します。また、得られる状態変数をサンプルし、ガウスノイズを加え、再びシステム・モデルから測定値に基づき、状態を計算します。
これで、直前状態の最良推定値に基づくものと、現在測定値に基づくものと2つのバージョンの現在状態が得られます。そして、カルマン・ゲインと総称される一連の重み付け係数を使用してそれらを結合することにより、時間 t における状態の新たな最良推定値を生成します。最後に、推定値と測定値の差に基づいてカルマン係数を更新し、誤差が発生しやすいと思われる入力の重みを減らします。その後、最初に戻り、次のサンプル時間のプロセスを繰り返します。
この反復法は、ある種のシステムでは数学的に最適な結果が得られます。しかし、計算が、ガウス分布のままである確率関数の線形結合に依存するため、非ガウス・ノイズについて問題があります。バッテリーが充電状態による電圧または電流の変化を全く示さない場合など、測定した変数が隠れ状態の推定に不十分である場合には正常に機能しません。さらに、理想的には浮動小数点の乗算と加算を各サイクルで多用する必要があります。これは、低コストのマイクロコントローラーに適した処理ではありません。
これらの理由により、時系列の電圧および電流サンプルから充電状態の正確な推定を得ようとするさまざまな方法が試され、論文のテーマとされてきました。ニューラルネットワークは(振り返ってみれば)、セルの実際の充電量に関するかなり正確なデータを含んでいる可能性がある測定データのファイルでトレーニングされており、いったん完全放電すれば実際の初期充電状態が分かります。
通常、このトレーニングは収集前のデータで行われます。というのは、ニューラルネットワークのトレーニングに必要な計算は、ほとんどのオンボードプロセッサやメモリシステムで可能な範囲を超えているからです。そのため、ネットワークのトレーニングに使用されたバッテリーが、システム内の実際のバッテリーによく似ているかどうかは分かりません。似ていなければ、ひどい結果しか得られないでしょう。ファジー理論の適用も研究されてきたはずですが、現時点ではカルマン手法が最も有望と思われます。
各セルの充電状態を推定することだけがバッテリー管理ではありません。そのデータを使用して、充電の制御、劣化したセルの保護、潜在的に危険な状態の発見、バッテリー全体の状態に関する正確なレポートを行うことも必要です。これらのタスクには、各セルの充電状態推定だけでなく、個々のセルの充電電流や放電状態の制御、場合によっては運用中のセル切り替えやバッテリー回路の分路も必要です。
5万ドルの自動車ならば、このレベルの高度化のコストは吸収できますが、50ドルのおもちゃのドローンでは不可能かもしれません。しかし、おもちゃのエラーでも、自動車のエラーと同様の大惨事を招く可能性があるのです。それは、依然として設計者にとって気になる問題であり続けています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.