MONOist 3年間の取り組みの中で、産業用ロボットの開発への影響についてはどう考えますか。
澤田氏 既存の産業用ロボットはプログラム通りの動きしかできないため、人間が稼働領域内に入っても動きを変えず、事故につながるという課題がある。そのため、安全柵の必要性などがあるわけだが、「電王手シリーズ」は、プロ棋士と柵も何もない場面で向き合わなければならない。さらに将棋盤の上は人が作業をし、ロボットも同じスペースで動作する「共有スペース」であるといえる。
そのため、さまざまな場面を想定し、安全性を最優先にした動作を行うよう工夫してきた。これらの代指しロボットの安全面の技術とは産業用ロボットの世界にも生かせるものだ。実際に、当社では「電王手シリーズ」製作で培ったセキュリティ機能を別の産業用ロボットに搭載し、商品化することにも成功した。例えば、前述の「バーチャルフェンス」は、もともと開発していた技術だったが「電王手シリーズ」で初めて実運用した。同技術はこの「電王手シリーズ」での知見を生かして製造現場で働く人を守るための技術として、他の産業用ロボット製品に応用。商品化につなげることができている。
澤田氏 インダストリー4.0で描かれた世界が実現に向かい、人とロボットの関係性が問われている現代において、ロボットの将来の姿は「AIの出力装置であること」だと考える。近年、AIは著しい進歩を遂げており、ロボットはAIの思考を実行に移す役割を持つが、肝心のロボットが技術面や規制面で足かせになっていては普及の妨げになってしまう。そういった意味では、われわれが3年間取り組んできた「電王手シリーズ」は、まさしく将棋ソフトというAIが指示する内容を安全かつ正確に再現し、人との共存を可能にする出力装置であると言える。
将棋という限られた世界ではあるが、電王戦では、緻密に設計されたAIとロボットの両者がそろった結果、将棋盤という共有スペース上で棋士とロボットが防護柵なしで対峙するという「人とロボットの共存」が実現できた。このフレームワークや得た知見を製造現場にうまく応用することができれば、われわれの目標である「人とロボットの協働」や「人とロボットの共存」がより良い形で実現できると考えている。
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