デンソーは、「第3回将棋電王戦」の指し手として同社のロボットアームが採用されたことを発表した。電王戦はプロ棋士とコンピュータソフトとの団体戦だが、過去2回はコンピュータソフトの指し手は人間が代理で行っていた。今回はロボットアームが指し手を務めることで「人間対コンピュータ」を分かりやすく可視化する。
ドワンゴ、日本将棋連盟、デンソーは2014年3月12日、同年3月15日〜4月12日にかけて開催する「第3回将棋電王戦」に、デンソーが協賛することを発表した。合わせてデンソーの子会社デンソーウェーブが提供する産業用ロボットアームを今回の「指し手」として採用し、全5局にわたり、プロ棋士たちと対局することを明らかにした。
将棋電王戦は、ドワンゴと日本将棋連盟が主催する、現役プロ棋士とコンピュータソフトとの真剣勝負だ。第1回は永世棋聖の米長邦雄氏(故人)と第21回世界コンピュータ将棋選手権優勝ソフト「ボンクラーズ」が対局。第2回は、選抜された5人のプロ棋士と、第22回世界コンピュータ将棋選手権の成績上位5チームによる団体戦が行われた。いずれもコンピュータが勝利を収めている。
従来の電王戦では、コンピュータソフトの指し手を人間が代理で指すスタイルだった。しかし主催者側の「より分かりやすく」という狙いから、今回初めてロボットアームを採用。コンピュータソフトが考える指し手をロボットアームが指し、プロ棋士と対局するというまさに「人間 対 機械」という構図を分かりやすく示す形となった。
将棋用として開発された「電王手くん」は、デンソーの子会社のデンソーウェーブが開発。同社の垂直多関節ロボット「VS-060」をベースとし、対局用に新たに機能やアルゴリズムの開発を行った。「産業用ロボットの価値を幅広く一般の方に知ってもらうチャンスだと考えた」(デンソー広報部)という。
開発された「電王手くん」は、コンプレッサーによる吸着式のアーム先端を持ち、駒をコンプレッサーで吸着して移動させる。アーム先端に装着したカメラにより多方面から画像認識するため、1mmの誤差もない着手が実現できるという。正確に細かい動作が可能であるため、公式棋戦で使われる将棋盤と駒をそのまま使用できる。
長時間稼働が可能で、数日にわたる可能性がある棋戦でも問題なく使用できる。さらに指す速度も自由に設定できる。1kgのモノを25mm持ち上げ、300mm往復させるのに0.35秒で行える試験結果も出ており、目にも止まらぬ指し手なども可能だ。
また一方で安全面での対応にも工夫を見せる。通常ロボットは安全性の面から稼働域に人を立ち入らせないように柵で覆うケースがほとんどだ。しかし、今回は対局ということで、稼働域に棋士が入ることになる。そこで安全性を確保するために、目に見えない安全柵(エリアセンサー)機能をロボットアームに搭載した。それにより、棋士がこの柵内に入ったときは自動で稼働が止まるようにしたという。
デンソー広報部の担当者は「通常ロボットアームは工業製品を運ぶ場合がほとんどだが、将棋盤や駒はほとんどが手作りで、同じものが1つとはなくそれぞれが違ったモノ。そういうモノを間違いなく正確に素早く運ぶということは、産業用ロボットにとってもあまり経験がなく一種のチャレンジだ」と語っている。
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