日本発の車載LAN規格「CXPI」は「CANとLINのイイとこどり」車載LAN規格 CXPI インタビュー(1/3 ページ)

日本国内で開発/策定された車載LAN規格「CXPI(Clock Extension Peripheral Interface)」が、自動車技術会のもとで2019年のISO化に向けて動き出している。CXPIは、CANやLINの適用が難しかった部位の多重通信化を狙う。機器間を1対1でつないでいたワイヤーハーネスをCXPIで多重化できれば、車両の軽量化にもつながる。CXPIの開発の背景や、導入のメリットなどについて話を聞いた。

» 2016年04月04日 10時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
デンソーの金子尚司氏 デンソーの金子尚司氏

 日本国内で開発/策定された車載LAN規格「CXPI(Clock Extension Peripheral Interface)」が、自動車技術会(自技会)のもとで2019年のISO化に向けて動き出している。CXPIは、車載システムの複雑化によって増加するワイヤーハーネスのうち、1990年代から利用されているCANや、2000年ごろから導入が始まったLINの適用が難しかった約3割の部位の多重通信化を狙う。機器間を1対1でつないでいたワイヤーハーネスをCXPIで多重化できれば、車両の軽量化にもつながる。このCXPI開発に初期から携わってきた、デンソー 基盤ハードウェア開発部 車載通信技術開発室 開発1課 担当課長の金子尚司氏に、CXPIの開発の背景や、導入のメリットなどについて話を聞いた。

ワイヤーハーネスの50%は機器同士を1対1でつないでいる

MONOist CXPIという新しい車載LAN規格を開発することになった理由は。

金子氏 ワイヤーハーネスの増加による車両の重量増が課題となっていたので、ある国内自動車メーカーの車両を分解してワイヤーハーネスがどのように使われているか洗い出してみた。クルマ1台のワイヤーハーネスのうち、CANやLINといった車載LAN規格に基づくネットワーク接続が8%、電源系統が約40%で、残りは全て機器同士を1対1でつなぐ“ジカ線”だった。

 このジカ線の用途は、スイッチなどの操作系やサイドミラーなどモーター駆動のアクチュエーター、LED照明の点灯/消灯などCANやLINを適用しづらい部位が3割を占めていた。これらのジカ線を車載LANに置き換えて、ワイヤーハーネスの重量削減につなげられないかという動機でCXPIの開発が動き出した。

ワイヤーハーネスのうち、車載ネットワークはたった8%の一方、機器同士を1対1でつなぐジカ線が50%を占める ワイヤーハーネスのうち、車載ネットワークはたった8%の一方、機器同士を1対1でつなぐジカ線が50%を占める (クリックして拡大) 出典:自動車技術会

MONOist CANやLINの工夫で対応せず、なぜ新しい車載LAN規格を開発したのか。

金子氏 ジカ線から車載LAN規格に置き換えようとしたのはHMI(Human Machine Interface)に関わる部位だ。スイッチを押してすぐ動作するという意味でCANの応答性はHMIに最適だが、コストが高すぎた。CANを適用するにはECU(電子制御ユニット)にCANコントローラーを搭載したマイコンが必要になるので、対象とする部位の1つ1つをCANに置き換えると量産できないレベルの高コストになる。

 一方、LINは低コストだが、性能上の弱点があってHMIに使うには応答性が足りない。応答性を改善する手法もなくはないが、工数がかかり過ぎる上に、モデルの一部改良で機能が増減すると再設計が必要になるなどの問題がある。

 こうした理由で、車載LANを適用せずジカ線とするしかなかった部位が多く存在していたことがCXPI開発の背景にある。CANの応答性とLINの低コスト、両方をイイとこどりした車載LAN規格が必要だと考えた。そこで、LINの構成をベースにCAN並みの応答性を実現できるような規格の開発を目指した。

低コストなLINの構成でCAN並みの応答性を目指す 低コストなLINの構成でCAN並みの応答性を目指す (クリックして拡大) 出典:自動車技術会

MONOist CANで実現できている高い応答性に対して、LINの応答性はなぜ低いのか。

金子氏 CANは、LANに接続しているバスへのアクセスがなければメッセージを送信できる。同時にメッセージが送信された場合は、あらかじめ決められた優先順位に従ってメッセージの送信処理を行うので、優先度の高いメッセージをすぐに送信処理することができる。

 LINは、アクセスのスケジュールを管理する“親”と、その指示を聞く“子供”の構図だ。親が子供に対して順番にしゃべることを許可するイメージだ。子供が親と話すにはスケジュールで自分の番が回ってくるまでの待ち時間があるため、応答時間が長くなる。スケジューリング次第ではあるが、10個のLINノードに対して1ノード当たりの待ち時間が30msとすれば、応答時間は最大で300msになる場合もある。

 LINの応答性を向上するには子供の人数を少なくするしかないが、そうなるとLINのバス構成を分割するためのコストがかかる。また、HMIの高機能化などで子供が増えると、スケジュール設定が複雑になって設計負担が増えてしまう。

 HMIは、誰がいつ送信するか分からないイベントに備える必要がある。ドライバーが何かのスイッチを押したり、車外のセンサーが暗くなったことを感知してヘッドランプをつけたりすることに対して、スケジューリングによって高い応答性を実現するのは難しい。このため、CANに慣れた技術者がLINを敬遠したことも影響し、LINの採用は限定的になった。

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