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» 2016年03月10日 10時00分 公開

AUTOSAR導入に対する「期待」を正しく見定め続けるためにAUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来(6)(3/3 ページ)

[櫻井剛(イータス RTAソリューション シニア・コンサルタント),MONOist]
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AUTOSAR導入による、プロジェクトごとの開発所要工数の変化のイメージ

 しばしば、ソフトウェア開発規模は指数関数的に増大するといわれている。AUTOSARを導入することで、プロジェクトごとの所要工数がどのように変化するかをイメージとして示したのが図1である。ここに「期待」できることをあてはめてみるのも良いだろう。

図1 図1 プロジェクトごとにかかる個別所要工数のイメージ(筆者作成)(クリックで拡大)

 赤の線は従来の開発工数の推移、緑の線はAUTOSARを導入しフル活用した場合である。

 導入初期は、ツール導入や、習熟までの期間の非効率、プロセス再構築、再利用可能な資産の再構築※5)、各種自動化(AUTOSAR XMLを利用したテスト自動化など)の準備など、広い意味での初期投資が行われる。従来に比べ、一時的に所要工数が増えるだろう。

 この段階で、例えば金額面の初期投資を抑えるような工夫が可能かもしれない(図1内の矢印1)。実際、初期投資の想定はほとんどの場合過小に見積もられることから、投資ボリュームが判明すると、必ずと言っても過言ではないほど、この手の工夫が試みられるのが実情である。

 しかし、選定や価格交渉に時間をかけることによる損失を過小評価してはならない。ツールやBSWなどを購入するだけで運用方法が身につくわけではないし、費用面でのわずかな効果を得たとしても時間を失っているからだ。初期投資を全体として抑えたいのであれば、不必要な試行錯誤による非効率を避け、若干の費用をかけてでも効率の良い習熟手段を確保するといった方向に目を向けるべきである。

 図1の赤の線(従来)と緑の線(AUTOSAR導入後)が交わり逆転するのは、導入後、再利用や自動化といった効果が出てからである。初期投資分を含めた収支は、交点よりももう少し遅れてからプラスに転じる。この段階では、ツールなどの保守費用の抑制のような項目でも工夫が可能かもしれない。しかし、その交渉に時間を費やすよりも、再利用や自動化などの効果をいかに引き出し続けるかを考える方が重要であろう(図1の矢印2)。

 なお、そういった効果を引き出すために必要な投資が過剰に抑制された場合や、そもそもそういった効果をはじめから活用しようとしない場合には、ここでの効果は得られず、2本の黒の破線のように永久に投資効果が出ないという結末をたどるであろう。目的と、AUTOSAR導入という手段の主従が逆転している場合には、そうなりやすいのではないかと予想する。

 そして、さらに進み、ソフトウェア開発における工数の増大ペースを抑制できるようになれば、効果はいよいよ大きくなる(図1の矢印3)。しかし最終的には、本質的な開発規模の増大は続くであろう。

 さて、皆さまが見つけた期待は、矢印1〜3のどの部分に当てはまっただろうか。全ての矢印にあてはめられるものが見つかっただろうか。少なくとも、実感の持てるものを矢印2と3にあてはめることができなければ、もう一度検討していただきたい。まだ受け入れできるよう状況ではないかもしれないからだ。

 また、効果の実感はあるが、実現できるという実感が持てないのであれば、それを阻害する要因や制約を洗い出し、個人や一部門で対応できるものか、組織的に対応すべきものかを整理していただきたい。

 そこには、従来型からAUTOSARへの移行に伴う、いわゆるレガシー問題が随所にあるだろう。例えば、自動車メーカーの立場であれば、通信や診断仕様におけるものがその典型だ。しかし「今は変えられない」と言い続けていては、いつまでたっても変わらない。過去には、「どうせ変えられないから、AUTOSAR導入の効果は考えたくもない」という極端なご意見をいただいたこともある※6)。しかし、「変えられない」と決めつけて(判断して)しまうのは早すぎないだろうか。

 まずは、「変えるための計画」を検討してはどうだろうか。実際に、AUTOSARに移行するとしても、従来型のもののライフサイクルをいきなり終了させることはできない以上、終了準備のための計画的な活動が必須となる。終了に向かわせることができなければ、複数の同種のもの(プラットフォームなど)を維持し続けなければならず、いずれはその負担に足を引っ張られてしまうだろう。「変えるための計画」を発動できれば、それで十分に成功なのだ。

 組織的かつ長期的に取り組み、必要に応じて経営層から支援を受ける必要があることを、個人や現場のレベルで解決しようとしてもそれは無理というものだ。そのようなものを特定し対処が決まれば、個人や現場のレベルで効果が上がるものも見えてくるだろうし、それに専念しやすくもなるだろう。

まとめ

 実は、掲載の間が空いたこともあり、「(連載は)いつ終わるのか? 一通り全部読んでから着手しようと思っていたが……」というお声もいただいた。しかし待つのはお勧めしない。連載の終わりがまだ見えないことよりも、第4回にも書いた通り、AUTOSAR導入によって期待できることは、明快で永久不変かつ万能な唯一の答えとして与えられるのではなく、実体験の中で見えてくるものが多いからだ。

 次回も、「量産開発を通じてのAUTOSAR導入」の2つ目の側面である「AUTOSAR導入により、基本的な型や支援体制をどのように変えていくかの見極めと必要な活動の実施」に関連する内容を続ける。キーワードは「再利用」を予定している。

 また、紙面が許せば、AUTOSAR関連で最近急にお問い合わせが増えた幾つかのトピックについて、最近の動向をお伝えしたい。

注釈

※5)筆者は、単なる焼き直しは決して推奨しない。しかし、再利用可能なAUTOSARベースのソフトウェア資産が全くない状態からスタートするならば、少なからず焼き直しは必要になるだろう。

※6)お気持ちは十分理解できるのだが、それは学習性無力感(learned helplessness)の類いかもしれない。まだ諦めていない人を周囲で探し、今一度、一緒にトライしてはどうだろうか。


お知らせ

 筆者が現在所属するイータスでは、AUTOSARをはじめ車載ソフトウェア開発に関する「よろず相談会」を随時開催しています(要事前予約、初回無料)。詳しくは、申し込み用Webサイトまで。


【筆者紹介】
櫻井 剛(さくらい・つよし) イータス株式会社 RTAソリューション シニア・コンサルタント
2014年よりイータス株式会社。ECU開発(1998年〜)やAUTOSAR導入支援(2006年〜)における経験を生かしし、2015年現在、AUTOSARに関する全般的な支援業務、および、機能安全を含むシステム安全に関する研究に従事。修士(工学)およびシステム安全修士(専門職)。
イータス株式会社
http://www.etas.com/ja/


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