自動車メーカーに勤める現役の自動車エンジニアが自身の人生を振り返る。最終回となる第3回の風雲編は、いきなりの配属変更で壁にぶち当たるところから、恩師との再合流、全社のMBD(モデルベース開発)推進統括本部での活動までを描く。
量産立上げ部隊への配属を移動先の部長と合意していたハズが、当時のボディシステム開発グループのマネジャーの意向で実験部隊への配属となりました。
マネジャーいわく、
「まず実験部隊に所属して、車両系の開発の仕事の流れを学ぶこと」
がく然です。
配属後、部長が私の席に訪れ「何でお前がここに居る」とビックリしていました。
半泣きで「マネジャーに聞いて下さい」と返答をしましたが、再配属とはなりませんでした。
気を入れ直して、パワートレイン系の開発で培った、モデル開発とモデル運用を車両系の開発に提案しましたが……。
当時の車両開発領域は、自動車業界的にもサプライヤさんに依存した部分が色濃く、自らが机上検討を行い、その結果に基づいて設計諸元を決定する意識が希薄な部分がありました。このためMBD(モデルベース開発)に関しても黎明期前の状態であり、理解が得られませんでした。
正直、目の前が真っ暗になりました。
それと同時に後悔しました。
“白井騎士チームに残っておけば良かった”と……。
車両系の開発へ移動してから約半年が過ぎた頃です……。
うつむき加減に歩く私に声を掛けてくる人がいました。
白井騎士さんです。
お偉いさんへのプレゼンに使うA0サイズの資料を大きな巻物のように肩に担いでニコヤカに話しかけてきました。
「どうしたんね? 元気無いように見えるけど?」
白井騎士さんの好意に甘えて、少し愚痴を言ってしまいました。
そんな私に、白井騎士さんがニコヤカに応えました。
「分かってくれる人は必ずおるけん。諦めずに頑張りんさい」
“あれ? 戻ってこいって言ってくれないんだ?”などと甘えたことを考えながら白井騎士さんと別れました。
白井 騎士さんとの再会から1週間も経過しない時に、部長が代わりました。
社内でデジタル評価を推進して来られた方が部長に就任されたことで未来が開けたのです。
年間数億円近い予算を中期的に付けて頂き、実験の机上化を行うことになりました。
立案した計画名は「Virtual Prototype Plan」。直訳すると「机上実験化計画」となります。
構造→機構→耐久→音響と、年単位で段階的に対象物のメカニズムを解明する技術を新規開発しては積み上げていく計画です。この計画を実現するために最新鋭の計測設備と解析ツールを導入していきました。
2006年の初冬。
春の到来を待ちきれずに再燃した時期です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.