江戸氏が次に考えるべきことは、CFGモーターズとの協業実現に向けた交渉において、秘密情報を開示するのはどちらかという問題です。具体的には、自社(大江戸モーター)だけなのか、それとも、CFGモーターズからも同社の秘密情報の開示を受けるか、ということです。
つまり、初回の打ち合わせ(+その後数回の打ち合わせ)を経ると、協業の次のステージ(共同開発のステージ)に進むか否かを決定しなければなりません。江戸氏は、これら打ち合わせやそれに伴う電子メールなどのやりとりにおいて、以下の2つの点を確認し、判断を下す必要があります。
必要に応じて、第1回の打ち合わせ前に矢面氏に「CFGモーターズは秘密情報を開示する予定はあるか」と確認をすることも考えられます。
もし「大江戸モーターだけ」である場合(CFGモーターズとしても大江戸モーターから小型モーターの技術の紹介を受ければ十分という場合)は、秘密保持義務や上記の目的外使用禁止の義務を負うのは「CFGモーターズのみ」となります。その場合、NDAの契約書がその通りの内容になっているのか、確認が必要です。これを法律上「片務(片方のみが義務を負う)の秘密保持契約」といいます。
一方「双方が開示し合う」という場合は、CFGモーターズのみならず、大江戸モーターとしてもCFGモーターズの秘密情報の開示を受ける分、秘密保持義務や上記の目的外使用禁止の義務を負わなければならないことになります。これを法律上「双務(双方が義務を負う)の秘密保持契約」といいます。
大江戸モーターは、前者であればNDA上の義務(主要な義務)を負う必要がなくなりますが、後者の場合は上記義務を負わなければなりません。このため、交渉の実態が、大江戸モーターのみが秘密情報の開示をするというものであるのに、NDAが大江戸モーター、CFGモーターズ双方が秘密保持義務を負うという内容になっていると、実態と契約の内容との間にズレが生じていることになる上、大江戸モーターは追う必要のない義務を契約上負っていることになります。そこで、こうしたズレをなくすために、江戸氏は、秘密情報のやりとりについて事前に確認しておくべきなのです。
今回はこの程度としましょう。次回は、今回の続きでNDAを結ぶ際に留意すべき他の点についてさらに説明します。
第5回:「NDAにおける上手な『秘密情報の定義』とは?」
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