IoTの価値を高める地域医療連携システムの在り方医療機器開発者のための医療IT入門(4)(3/3 ページ)

» 2015年11月12日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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地域医療連携からモバイルヘルス、介護との連携へ

 現在、日本国内で導入されている地域医療連携システムをみると、診療情報を一定の形式に変換して共有するデータ共有型システムと、特定施設で稼働するアプリケーション機能を共同で利用するアプリケーション共有型システムに大別される。

 データ共有型システムには集中型と分散型があり、集中型の事例としては、NPO京都地域連携医療推進協議会の「まいこネット」(関連情報)、分散型の事例としては、北海道・NPO道南地域医療連携協議会の「MedIka」(関連情報)などがある。

 他方、アプリケーション共有型システムには参照限定型と電子カルテ共同利用型があり、参照限定型の事例としては、NPO長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会の「あじさいネット」(関連情報)、電子カルテ共同利用型の事例としては、福岡県・宗像医師会病院を中心とする「宗像医療情報ネットワーク(MuMIN)」などがある。

 地域医療連携システムの取り組みに積極的なところは、新しい技術や制度的仕組みの導入に向けた取り組みでも先行している点が特徴だ。例えば、京都のまいこネットでは、スマートフォン/タブレットに対応している他、「Gooからだログ」(関連情報)などのSNS系システムと連携して、患者が入力するバイタルデータ(体重、歩数、血圧など)と医療系データを統合的に扱う実証実験を行っている。宗像医師会では、在宅医療連携拠点事業室が中心となって「むーみんネット」(関連情報)を開設し、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、介護職員などの多職種協働による在宅医療・介護連携に向けた取り組みを行っている。

IoTを介した医療機器と在宅医療、在宅介護の相互運用性確保がカギ

 今後、地域医療連携システムやIoTの普及が拡大すれば、医療施設の部門内連携にとどまっていた医療機器も、部門間から施設間、在宅介護との連携へと利活用範囲を広げる機会が増えることになるが、その一方で克服しなければならない課題も増えてくる。

 例えば、本連載第2回で紹介した臨床情報システム(CIS)の観点からみると、先述の厚生労働省標準規格の大半は、放射線部門や臨床検査部門に関連するものであることが分かる。医療機器のデータをIoT経由でCISから電子カルテ、地域医療連携システムへとつなげようとしたとき、相互運用性/標準化の取組が進んでいる部門/診療科とそうでない部門/診療科では、実際の構築や運用で差が出てくる点に注意する必要がある。

 放射線部門や臨床検査部門で広く利用されている診断系医療機器と比較して、手術部門や特定の診療領域で利用される治療系機器は、制御システム特有の独自規格で外部とのネットワーク接続を想定していなかったものが多い。相互運用性/標準化の取組もまちまちだ。例えば、各治療施設に分散した治療系医療機器のデータを地域レベルでつなぎ、ディープラーニングに代表される人工知能(AI)技術を駆使した臨床意思決定支援機能を開発しようとすると、地域医療連携システム全体の相互運用性を考慮した設計が求められることになる。

 さらに今後、医療機器と地域医療連携システムをつなげた事業展開上、大きなテーマとなるのが、在宅医療・介護連携に代表される地域包括ケアシステムとの関係だ。

 図3は、厚生労働省が推進する在宅医療・介護連携の全体像であるが、在宅医療、在宅介護双方の要件を満たす共通の標準規格や相互運用性フレームワークは今のところ存在しない。このまま、個別の医療機器ごとにIoTの開発・導入が進むと、電子カルテと同じ轍を踏むことになりかねない。

 在宅医療と在宅介護の間を飛び交うデータには、機微な個人情報が含まれているので、セキュリティ/プライバシー対策の観点からも相互運用性/標準化は外せない課題である。

図3 図3 在宅医療・介護連携の推進(クリックで拡大) 出典:厚生労働省「在宅医療・介護連携推進事業について」(2015年3月)

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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